誰にも訪れる死を森づくりに。「循環葬® 」CEOに聞く、多死社会における死と葬法の選択肢の重要性

死んで森に還る「循環葬®」

– 「循環葬®」とは何か教えて下さい。

小池さん: 循環葬®は、火葬後のご遺骨を細かくパウダー状にして、森林の土中に埋葬する葬法です。この方法は、神戸大学 生命機能科学 土壌学の鈴木武士准教授と一緒に開発しており、なるべく土壌環境に負担のないようにしています。

–  土壌環境にはどのような影響があるのでしょうか?

小池さん: ご遺骨の成分は、リン酸カルシウムというものがほとんどです。このリン酸カルシウムは、実はホームセンターで土壌の肥料として売っているものです。つまり、人の命を肥料として、自然循環させることができるんです。ご遺骨が木の栄養となり、芽となり、その実を鳥がどこかに運んだり、落ちた実を鹿が食べたり。自然の中に広がっていくということが実現します。

– 人の命が自然循環する、というわけですね。

小池さん: そうですね。基本的には生前契約をメインにしておりまして、ご自身の意志でかつ、生前の生きている時にお支払いまで済ませてもらうようにしています。お値段は合葬の48万円からご用意しており、売上の一部は、拠点の森の森林保全に充てるだけではなくて、日本全国の森林保全をされている団体に寄付もしております。場所は、森を切り開くのではなく、森そのものを使っています。ウッドデッキやベンチを森に溶け込むようデザインし、生前にご家族と一緒にピクニック感覚で来てもらったり、森林浴もしていただけます。また、ご遺族の方々の、お墓参りの時間も森林浴になります。

– すごい。自分が眠る、あるいは家族が眠っている森でそんな時間が過ごせるのはすごく豊かなことのような気がします。けど、お墓…という感じはないのでしょうか...?墓石が並んでいたりすると、ピクニックや森林浴とはちょっとイメージが違うような。

小池さん: 私たちは、墓標を建てないというスタイルをとっています。これはなぜかと言うと、第一に森の風景を守りたいという思いがあります。墓標がズラッと並ぶと、どうしてもお墓っぽくなっちゃいますよね。また、墓標を建てるとずっと管理が必要。後世のことを考え、墓標を建てないという選択をしました。

「循環葬」の生まれた背景にある「少子高齢化」「多死社会」

– どういった経緯で「循環葬®」は生まれたのでしょうか?

小池さん: 一番最初のきっかけは、私の両親のお墓の改葬(お墓の引越し)を検討した際に、葬法の選択肢の少なさを知ったことです。今「少子高齢化」っていうのはよく聞くと思うんですけど、それに伴って多くの方が亡くなる「多死社会」が到来しています。データでは、2040年までに死亡者数が上がり続けて1日4500人が亡くなる社会がくると言われているんです。お墓の不安を抱えている方も増加傾向にあります。例えば、「自分たちが今持っているお墓は、いつかは無縁墓になるんじゃないか」と考えるなど。この背景には、家制度の崩壊だったり、核家族化だったり、都市部への人口集中、未婚者の増加など、いわゆる仕方がない時代の変化があります。私たちがシニアの方々にインタビューをしたところ、子供や周りに迷惑をかけたくないというのが圧倒的に多くてですね、迷惑をかけたくないっていう言葉の裏には、自分たちも負担に思っていたっていうところが見え隠れしているんです。また、女性に関しては、70代以上のシニアの方々でも「お父さんのことは好きだけど、お父さんの実家のお墓には入りたくない」っていう方が意外と多いというところも分かってきています。そういうこともありまして、長方形型の一般的なお墓を新しく買う方は、現在2割以下というデータもあります。

– すごい少ないんですね!確かに、私の実家のお墓がある墓所でも、余っているところが増えているような…子供の頃は、いっぱいだったのに。

小池さん: そうですか。海外の先進国も、やはり少子高齢化の多死社会ですので、死に関わるアイディアや、新しい技術や新しい埋葬方法を考えているところがたくさんあることが分かりました。最近では、「Death Tech」というカテゴリーが出ているんですけれども、例えばアメリカでは「コンポスト葬」というものがあります。この葬法では、ご遺体をあるカプセルにいれると土になって還ってきます。アメリカの州の法律を変えてまで、この葬法を実践しているそうです。他にも、火葬ではなくて水で遺体を分解する「アクアメーション」というものが欧米ではじまっています。海外で選択肢が広がっているのであれば、日本でも時代にあった選択肢があってもいいのではないかと考えてたどり着いたのが「循環葬® RETRUN TO NATURE」です。

– 海洋散骨や宇宙葬なんていうのも耳にすることもありますが、森にこだわったのには何か理由があったんですか?

小池さん: はい。日本は国土の7割が森林と言われる森林大国ですが、今、林業の衰退だったり、管理者の高齢化によって、放置されているところがたくさんあるんです。いわゆる放置林問題ですよね。人工林が多いんですけど、人工林って手入れをしないとどんどんと廃れていく。この放置林問題と死、お墓をかけ合わせて、誰にでも訪れる死を、森づくりに貢献できないかと考えたんです。

– 埋葬される森は、どんな所なんでしょうか?

小池さん: 大阪と兵庫の府県境にある標高660メートルの低山の山頂にある寺院「能勢妙見山」が所有する森の中でやっております。この能勢妙見山は、かなりの土地を持っていて、一部に天然記念物のブナ林をお持ちなんです。天然記念物に指定されている場所は緑豊かに守れているんですけれども、その他の一部分は人員不足だったりで荒れ果てた感じでした。それこそゴミが捨てられていたりとか、山小屋もお化け屋敷みたいな感じで残っていたりして…ここに私たち循環葬®が入り、人と緑が心地よく過ごせるような場所に変えていきました。散乱していた煉瓦をゲートに再利用したり、山小屋は上だけ撤去して、土台を活かしてデッキとして生まれ変わらせたり。遊歩道の木も、森の間伐材で作っています。

 

– 山頂までは、どのように行くんですか?

小池さん: この能勢妙見山、実はハイキングで有名な山で、ハイキングコースがいくつもあるんです。1番短いコースであれば、1時間半くらいで登れます。もちろん、近くの駅まで車でお迎えする送迎もご用意していますので、ご安心ください。

– 良い運動になりますね。お寺の土地なので、将来的に開発予定地になるというリスクはないんですよね?

小池さん: 100%とは言えませんが、やはりお寺さんとして400年以上の歴史をお持ちですので、ここに新しいビルが立つとかは考えられないと思います。民間企業である私たちがお寺さんと組むことによって、永続性を担保できると考えています。

– 墓標を建てないことで管理を最小限に押さえているというお話でしたが、森自体の管理はどのようにされているんですか?

小池さん: もともと能勢妙見山は天然記念物の森をお持ちなので、その森を整備している業者さんと一緒に間伐を定期的に行っています。放置された人工林って本当に見ていて悲しくなる状況で、、私たちの森も最初は本当に暗い森だったんですよ。そういう森を健康的な森に戻すことを目指しております。しかし、いっぺんに間伐してしまうと変化がありすぎて森に負担がかかるので、急がず少しずつ間伐していきます。それこそ、ご契約者さまが増えれば増えるほど、森がきれいになっていくという形ですね。

– みんなで一緒に、森を作っているって、素敵ですね。

小池さん: そうですね。新しい樹を植えたとしても、成長には何年もかかるものですので、時間をかけて森づくりをしています。

– ご契約者の方々は、どんな方々が多いのか差し支えない程度で教えて下さい。

小池さん: メインは、やはり60−70代のシニアの方々です。けれど、お若い方もいらっしゃって中には40代の半ばの方もいらっしゃいます。「お墓を残したくなかった」という方が多いですね。今まで、このような選択肢自体がなかったので、私たちのような墓石もなくて自然に還せる、森に貢献できるっていうスタイルに共感していただいた方が多いですね。「循環葬こそ、私が探していたものです」と、それこそ東京からわざわざ来ていただいて契約された方もいらっしゃいます。 

– 東京から!すごいですね。今は、関西を中心にということですが、またいずれかはどこか別の場所にも広げていくというのは考えられているんですか?

小池さん: そうですね。今は、関西を第一拠点として頑張っていますが、実はお問い合わせは関東からがすごく多いんです。なので、頑張って関東にも出したいなとは思っていますが、それはタイミングとご縁があったらという感じで、まだ分からないですね。今は、第一拠点を、循環葬® RETRUN TO NATUREの聖地として確立していきたいと思っています。

死生観を語る

–  御社が考える死の意味合いってどんなものでしょうか?

小池さん: 死生観って本当に人それぞれですよね。ですので、私たちがどうっていうのではなくて、ご自身やご家族それぞれの「死生観は?」を問うきっかけになればいいかなと思っています。

– なるほど。生前契約を促してらっしゃるのも、納得できますね。

小池さん: はい。けれど、死生観について語れる機会ってなかなかないというのが、私たちは問題だと思っています。親がどういう死に方をしたいのか知らなかったりするじゃないですか。だけど、これを家族内でちゃんと生きているうちに話しておけば、親の気持ちも尊重できるし、私たちもそれを尊重したってことで、お互い良い関係性になりますよね。なので、生きている時から、元気な時から死生観が話せるように、どうにかしたいなと思っていて、それこそ死を身近に感じることによって、生き方も変わるってありますよね。自分の死を決めておくことで、安心して生きていける。そういうこともあるんじゃないかと。色んな方の死生観に触れるイベントなども開催していきたいです。

 

– いいですね。死についての話題ってタブーとまではいいませんが、家族間でもちょっと話しづらいと感じている方も少なくないと思います。具体的にはどんなイベントを考えていらっしゃるんですか?

小池さん:  循環葬のサービス開始を記念した全3回のトークイベントを開催しており、1回目は「お墓の歴史」、2回目は「グリーフケア(喪失のケア・悲しみのケア)」をテーマに専門家の方にお話していただきました。3月に最終回となる3回目のトークイベントを開催します。トークゲストは、世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoung Global Leadersであり、日米でご活躍される現代僧侶の方に来ていただき、「よき祖先になるために」をテーマにお話していただきます。(イベントはこちら)

– 興味深いです。

小池さん: あとはYou tubeで「Ending TV」という番組をはじめておりまして、色々な方に死生観について語ってもらうものなんです。第1回目は、緩和ケアのパイオニアと呼ばれている先生にインタビューをさせていただきました。これまでに4000人の方々を看取ってきたという、その方のご自身の死生観をお話していただいています。

 

– それはすごいですね!死生観を語るためのイベントに加えて、今後の目標や、計画は何かありますか?

小池さん: 今は能勢妙見山を循環葬の聖地として、たくさんの方に知ってもらって、死の選択肢が増えればいいなと。それぞれが納得して、積極的に選ぶ選択肢の1つとして、循環葬が入ればいいなと思っています。皆さんそれぞれ、最適なエンディングを迎えられる世界になればいいなと思っています。

– 私の個人的な意見なんですが、すごく循環葬が素敵だなと思ったのは、宇宙とか海だと散らばっちゃうので、会いに行きたくても会いに行けないんですよね。

小池さん: それはよく言われます。墓標はなくても、この山や寺院に来たら「なんとなく会えた気分になる」。そういう〝場所〟があることが決め手だったとよく言われます。

– 遺される側としては、会いに行ける場所があるのって、安心できるなと思っています。

小池さん: そうですよね。私たちもまだスタートしたばかりで、循環葬という言葉も認知が低いと思っておりますので、一般的なお墓、樹木葬、納骨堂、循環葬くらいになって、皆さんの選択肢の1つになればいいなと思っています。 

【プロフィール】小池友紀さん

兵庫県出身。広告制作やブランディングを担うフリーランスのコピーライターとして15年活動。両親の改葬(お墓の引越し)をきっかけに人と環境にやさしい「RETURN TO NATURE 」を創案し、2022年 at FOREST株式会社を設立。経済産業省近畿経済産業局が推進するLED関西2021ファイナリスト。東京都女性ベンチャー成長推進事業APT Women第8期採択。

RETRUN TO NATURE 公式HP

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。

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