《本日最終公演》AKB在籍17年「寂しささえ覚える」柏木由紀の卒業を機に辿る、2000年代中盤を盛り上げたAKB48“初期の名曲”

女性アイドルグループ「AKB48」3期生として活躍、グループ在籍期間は17年というメンバー最長記録を築いた柏木由紀(32)が4月30日、AKB劇場(東京・秋葉原)での公演を最後にグループを卒業します。アイドルが大好きというライター・田中稲さんが、彼女の卒業を機に、2000年代中盤のエンタメ界をひときわ盛り上げたAKB初期の名曲を振り返ります。

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今年のいつ頃だっただろうか。柏木由紀さんが4月でAKB48を卒業するというニュースを見て、その画面から、ぶわっと不思議な熱風が吹いてくる感じがした。柏木由紀さんといえば、AKB48の第3期生。調べてみると、2007年に劇場デビューというから、17年間も在籍していたことになる。これはすごい! 普通なら「長くいすぎじゃないだろうか」と思うところなのだろうが、彼女に関しては寂しささえ覚えてしまった。

私が知っているAKB48メンバーは、彼女が最後かも——。そして、2000年代中盤を盛り上げた初期のAKBの独特な熱気に思いを馳せた。ああ、このニュースを見て感じた風は、私の記憶に強烈に残っている、あの熱気だ!

オタクと電車男とAKB48

AKB48は2005年に誕生した。この年は映画『電車男』が大ヒットし、世の中の価値観が変化したように思う。パソコンは前向きなコミュニケーションツールの一環となり、オタクは、「ネクラ」「粘着気質」「引きこもり」の代名詞から、「趣味を深掘りする専門知識を持つ人」へと変わった年なのだ。まさにオタク元年!

若者文化の中心地も電気街の秋葉原へ移動。秋葉原がホームのAKB48も、そんな時代の空気をフゥンッと吸い込み、どんどん育っていくのである。

私は、アイドルは「時代の子」だと思っている。その時流行っているものや雰囲気、もしくはこれから流行させたいことを発信し、パワーに変えていく若き勇者たちが、何人、何組、毎年数多デビューする。そして、そこから、世の中の視線をすべて集めるような、カリスマアイドル(グループ)が必ず出てくるのだ。なんと眩しい!

AKB48の初期の歌や映像を遡ってみると、『ロマンス、イラネ』(2008年)とか『AKB48ネ申(ネもうすテレビ)テレビ』(2008年スタートの冠番組)とか、当時のネット用語が散らばっていてとても懐かしい。

ただ、正直私は、AKB48が出てきたとき、ここまで人気が高まるとはまったく予想していなかった。

2007年の末に紅白歌合戦には、中川翔子さん、リア・ディゾンさんとともに「アキバ枠」として初出場を果たしているが、(彼女たちが歌った『会いたかった』はいい曲だと思ったが、)一瞬のブームで終わると思っていた。ところがどっこい、その後何年も時代を牽引するほどの特大ムーブメントを巻き起こすのだから、いやもう私のカンは本当に当たらない(泣)。

ストイックな『RIVER』、責任感漂う『Beginner』

私がAKBの楽曲で、初めて前のめりになったのは、14thシングル『RIVER』(2010年)である。高橋みなみさんの「エイケイビーッ!」という力強い掛け声のあと全員で「フォーティーエイッ!」と叫んでからの、ダンダンダン! という力強いステップ。

大人数グループアイドルだからこそ出せる軍隊感というか、「戦いが始まる」という戦闘態勢がインパクト大だった。

またタイトルが、これからの人生、行く手を阻む障害の具現化=RIVER(川)! それでも前へ進め、あきらめるな、と繰り返すとてもストイックな歌だ。

18枚目の『Beginner』(2010年)の「僕らは夢見てるか?」と問いかける歌詞は、すごく心に残る。「知らんがな!」とツッコむ隙がないほど、自分に厳しい少女たちの戦いぶりがヒリヒリと伝わってくる。夢に対してこんなに義務感、責任感が漂う歌は、なかなかない。

初期のAKBは、時代が送り込んだ人身御供のようで、「夢を叶えるのに必要な困難に、まず私がぶち当たってみるから、見ててね」と、己の苦しむ姿を晒し、励ましてくるような感じすらあった。

そんな彼女たちに、『10年桜』(2009年)や『桜の木になろう』(2011年)など、「桜」と名のつく名曲が多いのも、なんとなくわかるのである。実力をつけないと置いていかれるけれど、同時にまっさらに戻ることも願われる感じが、咲いて散り、また咲く、を繰り返す桜と似ている。儚さと美しさ、そして強さが必要な、過酷なサバイバル!

私は正直、見ているだけで胸が苦しくなるような、AKBの活動の在り方は好きではなかったけれど、これらの楽曲に心打たれたのは、認めざるを得ないのだ。くっ。

「やり切りました卒業」の尊さ

全盛期の印象は、エブリディオーディション。選抜メンバーになっても、いつ後列になるかわからない。総選挙というものまであり、気が休まるどころではなかっただろう。

大々的に報じられた3回目の選抜総選挙(2011年)で、柏木由紀さんが3位に食い込んだのはちょっとした事件だった。私はその総選挙で彼女の存在を知った。「えっ、誰?」状態。いやー、びっくりしたもの!

柏木由紀さん自身がYouTubeチャンネル『ゆきりんワールド』で3回目の総選挙で3位に入ったときのことを語っている。嬉しいと同時に順位が上すぎてびっくりし、「やっちまったなあ」と思ったというのが、なんとも彼女の性格を表しているようで、微笑ましかった。

柏木由紀さんの卒業シングル『カラコンウインク』は、柏木さんがウインクの天才であるとして、秋元康さんが作詞したという。彼女らしい、ソフトで明るいザ・アイドル楽曲だ。

この機会にファーストシングルから遡って聴こうとしたが、ディスコグラフィーを見ると「うっ」と怯んでしまうほどの数だった。「カラコンウインク」でろろろ63枚目!

そこで、柏木由紀さん自身がYouTubeで、AKBのあまり知られていない名曲としてオススメしていた『Green Flash』(2015年)を、今回初めて聴いてみた。そしてこれが本当にいい曲だった。

「ほんの少し遠回りもいいよね」。そんな歌詞の内容が、17年もの長きにわたりグループを盛り上げ続けた彼女に、とても合っている。

じっくり歩いて、遠回りして、たどり着いたターニングポイント。

「“本当にやり切りました卒業”」「大満足して卒業します」という彼女の言葉が素敵だった。

◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。

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