《“ふてほど”で再注目》おニャン子クラブの「不適切ではない」名曲の数々 エモさ、拙さ、表現力…目力…わずか2年半の活動で見せた「バブル期アイドル」の存在感

ドラマ『不適切にもほどがある!』のヒットを受け、俄かに注目を集める「昭和」と「令和」の価値観や文化のギャップ。ライターの田中稲さんが、同ドラマでも取り上げられたアイドルグループ・おニャン子クラブの「不適切ではない」名曲について綴ります。

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2024年冬クールで、一番話題をさらったドラマといえば、やはり『不適切にもほどがある!』(TBS系)ではなかろうか。2024年と1986年を行き来するタイムスリップもので、コンプライアンスの違いがくっきり表れて興味深い。昭和があまりにもユルユルのなのか、いやいや、今が厳しすぎるのか? 脚本の宮藤官九郎さんが視聴者に容赦なく問うてくる。

第4話ではおニャン子クラブの『セーラー服を脱がさないで』(1985年)がカラオケで歌われるシーンが登場。オリジナルを思い出し、サブスクでも聴いたが……。

「友だッちより早くッ! エッチをしたいけどッ♪)」

パンチすごいわ〜(汗)。しかもこれがデビュー曲である。あまりの破壊力に遠い目になってしまった。まさに不適切にもほどがあるスタートだったが、それでもおニャン子は一大ムーブメントを巻き起こし、ユニットやソロなどアメーバのように形を変え、曲を乱発。私は当時おニャン子旋風が大の苦手だったが、悔しいがその中には、名曲があったのも否定できないのである。

ということで、今回はおニャン子クラブと派生ユニット、ソロの「不適切ではない」名曲を振り返ってみたい。

別れの独特なハイテンションをリアルに表現した『じゃあね』

この卒業シーズン、春風と思い出に乗り、ふっと口から出るのが『じゃあね』(中島美春withおニャン子クラブ)である。芸能界を引退する会員番号5番の中島美春さんを送った曲だった。「じゃあね」という、軽めながら、やさしさと親しさを強く感じるワードを、卒業ソングのタイトルに持ってくるセンス! しかも彼女たちの歌唱力の拙さが逆に功を奏し、友達と離れる寂しさと、門出を祝いたい気持ちが混ざった時の独特のハイテンションをリアルに表現できている。全員で叫ぶ「じゃあね!」という曲の最後は素晴らしくエモい!

また、『真っ赤な自転車』(1985年発売の1stアルバム『KICK OFF』に収録)は、大好きな人の自転車の後ろという「恋の指定席」をゲットした女の子の胸の鼓動まで聞こえそう。しかしよくよく考えたら自転車の二人乗りは原則禁止なので、これまた別の意味で「ふてほど案件」なのか? いやもう考えてみたら、この曲に限らず、昭和のラブソングは、法律はアウトだが世の中的にはセーフというのがいっぱいだ。

そしておニャン子後期の名曲『かたつむりサンバ』(シングル・1987年)。素直になれない、待つだけしかできない恋心をかたつむりに例えるなど、秋元康さん、女心が分かり過ぎて恐ろしい! サビに近い部分のソロが工藤静香さんで、彼女だけやたらうまくて浮いている。しかしそのアンバランスな感じも、曲のいい味になっている。

女優並みの表現力を発揮していた内海和子

おニャン子からはソロやユニットの楽曲も多数生まれた。当時から、おニャン子を好きではなかった人の間でも評判だったのが河合その子さん。『落葉のクレッシェンド』(1985年)、『青いスタスィオン』(1986年)は、私はなぜかスルーしてしまっていたが、今聴けばどちらも風景が見える名曲! 彼女の表現力、歌唱力も、ちょっとアイドル離れしているというか、モードな迫力がある。売れるには理由があったのだと知った。

ソロでもう一人、名曲率が高いのが渡辺美奈代さん。『PINKのCHAO』(1987年)の浮かれた世界観は清々しい! 振り切った「可愛い」だらけのハイテンションが嬉しくなる。

『瞳に約束』(1986年)、『TOO ADULT』(1987年)も、ロリータの極みのような彼女の魅力を活かした名曲だ。しかしなんといっても『アマリリス』(同)。究極のアイドルフレイバーに加え、歌い手としての実力も感じる名バラード。秋元さんは彼女を「一点の曇りもない正統派アイドル」と高く評価したというが、なるほどである。

そして、特筆したいのが内海和子さんである。『蒼いメモリーズ』(1986年)のみずみずしさは、ハンパではない。アニメ『タッチ』の挿入歌だったらしいが、全然覚えていないのが悔やまれる。数年前初めて聴いて、あまりにもいい声でビックリした。『20歳』(1987年)、『もう君の名前を呼べない』(1987年)は、女優並みの表現力を発揮している。

ダメ元で調べてみたら、2003年リリースのベストアルバム『MY これ!クション 内海和子・BEST』を発見! ありがとうサブスク。素晴らしい。よどみない、アイドルの極みのような声が本当に心地いい。ライトなアルバムタイトルとは結構ギャップを感じるほどの名盤である。

神ユニットが表現する「乙女の本音」

そして最後に、おニャン子クラブの神ユニットといえば、「うしろゆびさされ組」「うしろ髪ひかれ隊」である。

「うしろゆびさされ組」(高井麻巳子・岩井由紀子)は、『うしろゆびさされ組』(1985年)、『技ありっ!』『渚の『・・・・・』』(いずれも1986年)など、本当にかわいい。アイドルはうまい下手ではない、逆にこの拙さ、幼さがなによりも恋のモジモジ、乙女の本音を表すこともある——。彼女たちはそう教えてくれた。

特に『渚の『・・・・・』』は、浜辺のデートで砂浜につく足跡と、キスの沈黙を「・・・・・」でW表現。神がかっている!

「うしろ髪ひかれ隊」(生稲晃子・工藤静香・斉藤満喜子)は、3人とも歌が上手で、プロの目力があって、もうおニャン子とは別枠っぽかった。『時の河をこえて』(1987年)の異国情緒、好きだったなあ。

おっと苦手なはずのおニャン子なのに、ウッカリ熱くなってしまった……。

おニャン子クラブが活動したのはわずか2年半。彼女たちは、楽曲に漂う不適切さや甘酸っぱさ、少し恥ずかしくなるくらいの無防備さも含め、存在そのものが「思春期」だったのかもしれないなあ、と、今になって思えるのだ。

◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。

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