更年期になると骨粗しょう症や動脈硬化の危険が上昇する…不調なくても要注意

40~50歳代の女性がイライラしたり、ほてりや急な発汗を経験すると更年期症状を疑うだろう。もう一つ大事なことは、寿命にも関係する重大病のリスクが今後高くなるということだ。

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「更年期症状の治療は、将来の生活習慣病の予防でもあります」

こう言うのは、愛知医科大学産婦人科学講座の若槻明彦主任教授だ。

更年期(閉経の前後5年間)になると女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に低下し、下垂体から卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンの分泌が過剰になる。それにより自律神経中枢に影響を及ぼし更年期症状が現れる。

かつては更年期症状は「我慢すればいずれ治る」という考えが主流だった。確かにたいていはいずれ治る。ただし期間は人それぞれで、長期間続く人もいる。症状の程度や継続期間にかかわらず、「更年期症状は我慢すればいい」ということではない。

「残念ながら我慢する人が今でも多く、受診する人は10%程度との報告もあります。しかしぜひ、専門医を受診してほしい。理由の一つは、更年期症状に有効な治療法が確立していること。そしてもう一つは、更年期でエストロゲンの分泌が低下し、やがてほぼなくなることで、骨粗しょう症や動脈硬化のリスクが高くなるためです」(若槻主任教授=以下同)

エストロゲンには、骨量を増やす作用がある。また、血中のLDL(悪玉)コレステロールを減少させ、HDL(善玉)コレステロールを増加させる作用もある。更年期以降これらが得られなくなると、骨粗しょう症、動脈硬化による心筋梗塞・脳卒中で、寝たきりや突然死につながりかねない。

「更年期症状の治療で骨折や動脈硬化を起こさないようにすることが非常に重要なのです」

■最新薬なら乳がんリスクは上がらない

治療はいくつかあるが、更年期の症状を抑え、かつ骨粗しょう症や動脈硬化の予防になるのがエストロゲンを薬で補充するホルモン補充療法だ。

「その効果は高く、ホルモン補充療法の2カ月後にはホットフラッシュに悩む人の8~9割が改善したとのデータもあります。ホルモン補充療法をしなければ確実に骨量は減りますが、逆に補充すれば確実に増え、骨粗しょう症予防になる。悪玉コレステロールが減り、善玉コレステロールが増えることも研究で確認されています」

ただし、デメリットも指摘されてきた。特に議論に上がるのが「主に下肢や肺の血管に血の塊ができ血管が詰まる静脈血栓塞栓症」「乳がん」「動脈硬化」のリスクだ。

ホルモン補充療法はLDLコレステロールを減らしHDLコレステロールを増やすが、一方で中性脂肪を増やし、LDLコレステロールを小型化させる。すると単に悪玉コレステロールが増えるより、動脈硬化のリスクが高まる。

しかし現在は、これらもクリアされている。

「ホルモン補充療法で使われる薬剤は複数あり、内服タイプの経口剤と、テープやゲルの経皮剤があります。静脈血栓症と動脈硬化は経口剤ではリスクが高くなるが、経皮剤では高くなりません。一番心配されてきた乳がんは、子宮のない人ではエストロゲン単独投与でむしろ減少し、子宮のある人では2021年末から日本で使えるようになった天然型黄体ホルモンをエストロゲンとともに使うことで乳がんリスクが高くならないことが、いくつもの研究で証明されています」

更年期症状の程度が軽くても、エストロゲンの分泌低下は間違いなく起こっているので、骨粗しょう症や動脈硬化のリスクと無縁ではない。更年期になったら、骨量が低下していないか、LDLコレステロールが上がっていないか、検査で確認すべきだ。受診先を迷ったら、「日本女性医学学会」のホームページに更年期に詳しい医師の検索ページがあるので、参考にするといい。

2024-05-08T00:54:16Z dg43tfdfdgfd