握力がなくても身長2メートルの男性を起こすことができる【誰でもできる力いらずの介助術】

【誰でもできる力いらずの介助術】#1

力任せの“パワー介護”で腰を痛める人は少なくない。実際、厚労省の調査によると腰痛は医療や介護を含む「保健衛生業」でとりわけ生じやすいことが分かっている。

「今から約25年前、38歳の頃に脳梗塞を発症し、左半身に麻痺の後遺症が残りました。一昨年にはステージ4の末期がんが発覚して右大胸筋を摘出したため、両手とも握力がほとんどありません。それくらい力が弱くても、ポイントさえ理解すればどんな相手に対しても身体介助は可能です」

そう話すのは、力がいらず腰に負担のかからない介助法を考案した埼玉医科大学客員教授の根津良幸氏だ。

多くの介助者が行っている「掴む」「抱く」「持ち上げる」といった力任せの身体介助法では、介助者の腰に負担がかかるのはもちろん、介助を受ける側にも負担がかかる。とりわけ高齢者は皮膚が薄く、少しの力が加わるだけで内出血を起こしたり、骨粗しょう症があれば骨折するリスクも高い。それらの問題を解決するのが根津式介護技術だ。少林寺拳法の理法である「人を倒すことができれば人を起こすことができる」から発想を得たという。

「体に障害があってもなくても、人は誰でも頭部が真正面と真後ろにある程度傾くと、体は必ず倒れます。頭を前へ傾けさせれば倒れまいと足に力が入るので、その動きを利用して介助者が引けば立ち上がれます。反対に、後ろへ頭が傾いたら押せば着座させられます。その際、相手の体を握ったり掴むのではなく『触れる』ことを意識して下さい」

介助の前に知っておきたいのが体の要所だ。主な場所は、①骨盤②肩甲骨の下端と背骨の交点③骨盤の上端と背骨の交点で、そこに力をかけられると動けなくなったり、逆に自分の意思にそぐわず動かされてしまう。いわゆる人間の“急所”でもある。位置をしっかりと押さえておけば、どれだけ体格の大きい相手でも力いらずの介助ができるのだ。

「昨年、高齢者の人口比率が世界一高いとされるモナコやその他の中東諸国から招待を受け、現地の医療施設で介助技術を紹介しました。両手の握力がほとんどない私が身長2メートルを超える男性を起き上がらせたことで、驚きの声が上がりました。ご家族の介助がうまくできないと悩まれている方は、ぜひ根津式介護技術を試してみて下さい」

次回から具体的な根津式介護技術を紹介する。(つづく)

(根津良幸/埼玉医科大学客員教授)

2024-05-08T00:54:33Z dg43tfdfdgfd