広告に潜むエイジズム・フェミニズム・ルッキズム|前川裕奈さん×笛美さん(2)#しゃべるっきずむ!

広告は「若い女の子」に頼りすぎている

前川裕奈(以下、前川):笛美さんが働かれている広告業界は、ビジュアルとは切っても切り離せない世界だと思うんですけど、そこで何か感じていたことはありますか?

笛美:「男の人が見ている女性」しか広告に描かれてないんじゃないかな、と私はずっと思っているんですよね。特に若い女の子、例えば女子高生がメインの広告が結構ありますね。海外では女子高生が真ん中にいる広告はあまりなくて、おじさんやおばさんも広告の中にいるんです。

前川:たしかに日本の広告は、女の子が何かを食べたり飲んだりする描写が多めですよね。

笛美:彼女たちの活躍は素晴らしいと思います。ただ、広告業界にいると若い女の子たちが貴重であると同時に、“使い捨て”の存在でもあることがだんだん見えてくるんです。若さを失ったら別の人に替えられてしまって、消えていく人もたくさんいて……。

前川:日本社会って、“若さ”が、ある種の正義みたいになっていますよね。

笛美:そうかもしれませんね。

前川:これはエイジズム(年齢差別)の問題ですが、ルッキズムの側面から見ても影響があると思います。化粧品の広告では「若返り=シワのない顔」がよしとされていたり、「若いままの体型=ダイエット」が強調されていたり、社会全体として歳を取ることが悪だと根付いている感じはしますね。

笛美:日本の女性たちのロールモデル不在の状態ですよね。世の中に出回る広告やメディアのなかで成熟した女性の活躍を見られないのは、若い子だけでなく社会全体にとって良くないことだろうなと思いますね。

煽り広告は“効果的”だから、増える?

笛美:SNSでフォロワーさんに「最近、嫌だった広告ありますか?」とよく聞いてみるんですよ。脱毛や豊胸などルッキズムに関するものが多くて、「脱毛して当たり前」とか「整形しなきゃダメだ」みたいなものがストレスになっていることがうかがえました。私たちが若い頃よりも、そういった広告が増えているんじゃないかな。

前川:私たちが学生のときは整形ってめちゃくちゃ高額でハードルの高いものだったから、本気でやりたい人だけのものだったように思います。今はかなり安価になったし、昔よりはよくも悪くも手軽にできる印象ですね。

笛美:そうですよね。

前川:私は整形自体を悪だとは思っていなくて、自分のために決めたならいいと思うんです。でも、中高生などの若い子たちが、本当に「自分のため」なのか見極めるのは難しい。その状態で「友達や彼氏に嫌われちゃうよ」という煽り商法は、すごく悪質だし危険だと思ってます。というか、なんであんなに煽ってくるんでしょう?!

笛美:いくつか理由があると思うんですけど、やっぱりその方法で成功したことがあったり、過去のパフォーマンスが良かったりしたから、何回も繰り返してる可能性はあると思います。もしくは、作っているのが男性ばかりで、「女の子は彼氏に愛されるために脱毛や整形をするはずだ」という偏った女性像の上で作っているか……。どんな人が作ってるのか、私もすごく気になります。

前川:めっちゃ気になります。

笛美:あとは制作側がいくら変えようとしても、クライアントが「毛の生えてる女は、女じゃない」みたいな価値観なんだとしたら、広告は変わらなかったりもしますね。今は、低予算で広告を作って流せる世の中になってしまったので、そういった倫理観の低いクライアントの粗悪な広告が流れている可能性もあります。あくまでも推測ですけど……。

前川:びっくりするくらい「男のため」を強調してくるんですよね。せめて「脱毛したら手入れの時間を他に使えるようになった!」とか言ってくれたらいいのに。あそこまで彼氏や夫に好かれるためというのをベースにされると、我々は男を喜ばすためにメイクや脱毛をしているわけじゃないんですけど?!って思っちゃいます。

笛美:本当にそうですよね。

選ばれる構造だから「かわいく」ならなければ

前川:笛美さんの著書には、海外に行ったことをきっかけに日本の歪さに気が付いた描写がありますよね。広告という視点でも、何か気づきがありましたか?

笛美:女性の描かれ方が全然違うなと思いましたね。公の広告で性的に描かれることはまずありえないですし、それこそ若い女の子がキャッキャさせられる、みたいなことがない。別に広告なんて作り物だと思う人もいるかもしれませんが、やっぱり社会に影響はあると思います。女の子はかわいくなければいけないし、「わーすごい」「きゃー幸せ」と言わなきゃいけない、みたいな理想像は広告やメディアの価値観が強いと思うんです。

前川:さっきも話に出たように、「かわいくて若い」以外の女性の描かれ方が極端に少ないですしね。

笛美:やっぱり日本は、女の人がオカズなんだろうと思います。AVの影響も大きいと思うんですけど、「JK」でも「バリキャリ」でも「人妻」でも「フェミニスト」でも、どんなジャンルの女性であっても性的に描かれることが当たり前になっている。海外に行った時に、女性がそうやって扱われないことにすごく衝撃を受けたのを覚えてます。

前川:なるほど。たしかに「男性が極端に性的に描かれる」「女性が男性を性的な目でじろじろ見る」みたいなことって少ない気がします。日本社会のマインドセットとして、女性は“選ばれる側”というのがあるのかも。だからこそ、選ばれるためには美しく/かわいくならなくちゃ、というルッキズムとセットになってくるというか。

笛美:女性に主体性を持たせない社会ですよね。。海外に行って衝撃的だったのは、セックスすることも子どもを持つことも自分で選んでいいんだってこと。日本では「結婚したのに子ども産まないの?」「卵子が老化するから早めに」と当たり前に言われていたけれど、そういうことも自分の意志で選んでノーと言ってもいいんだ、と。

前川:私も結婚や妊娠については周りから言われてきたので、よくわかります。言ってくる人も悪意があるわけじゃないんですよね。本当に良かれと思って言ってくれているから余計につらい。

笛美:「若いうちに産んだ方が楽」は、たぶん事実だと思うんですよ。ただ、その事実と「決定権は自分にある」という情報の両方が必要なんです。そこが欠落した状態で、周りの人や広告が「これがいい!」と言ってくるのが今の日本なのかなと思います。

前川:主体性のある女性像が当たり前になれば、“自分が何を選ぶか”を重要視できる社会になるのかもしれないですね。結婚や出産などの生き方もだし、髪型や体型ひとつ取っても自分の意思で選んでいいんだと。

笛美:やっぱり主権者教育というか、自分に主体性を持たせてくれる社会がいいんだろうなと思いますよね。これは女性だけでなく、男性にとっても「自分の人生を握るんだ」という感覚が必要な気がします。

広告も社会も、変わりつつある

前川:ルッキズムもフェミニズムも、いろいろなことが重なって作り上げられてきているから、パッと解決できることではないですよね。だから、こうやってみんなで考えて発信していくことで、少しずつ社会が前に進んでくれたらいいなと思っています。

笛美:私自身、発信を続けてきて、手応えはすごく感じてるんですよ。私がブログを始めた2019年頃に比べたら広告業界の空気も変わっているし、業界の人たちが興味を持つようになったのも感じます。正直、私もその変化に関われたんじゃないかなと思うんですよ。遠因かもしれないけど、1つの要因にはなれたかもしれないと勝手に思ってるので、やってきてよかったなと思ってます。

前川:たしかに近年の社会の変化は感じます。ルッキズムの文脈でも、最近、順天堂大学が主体で「マイウェルボディ協議会」というものが立ち上がって、大手の制作会社もタイアップで積極的に参加しています。今まで「痩せこそ正義」と発信してきた側の企業が「痩せるだけが正義じゃないよ」という発信をし始めているのは大きな変化です。確実に前には進んでいると思います。

笛美:フェミニズムとかルッキズムとかも、そのうち「ウォッシュ」(社会に良いことをしていると見せかけるだけの実績・活動)と言われるのかもしれませんね。

前川:それもまた社会で揉んでいくべきなんでしょうね。それで認知が深まったり、議論のなかで自分の軸が確立することにもなります。ルッキズムも回答がバシッとあるものじゃないからこそ、自分なりの解を持つことがすごく大事なんだと思います。

笛美:そうですね。海外に行って、そういった議論ですでに耕された社会だと感じました。それで居心地が悪くなったりすることもあると思うんだけど、やっぱりちゃんと議論をされた上で広告を出すのと、議論が全くないなかで広告を出すのは、全然違うこと。日本ももう少し耕されていくといいなと思います。特にルッキズムの土壌はこれからでしょうから。

*次回、SNS上で人々を巻き込みながらムーブメントを起こしていく笛美さんに、仲間の作り方を聞きます。3回目「社会を動かす“仲間”の作り方」は、こちらから。

プロフィール

笛美さん

広告業界で働くかたわらSNSでフェミニズムや社会問題について発信。著書に「ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生」(亜紀書房)がある。2020年に旧Twitterで480万回ツイートされた「#検察庁法改正案に抗議します」仕掛け人。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。ブランドを通して、日本のルッキズム問題を発信。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、「ジェンダー」「ルッキズム」などについて企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。yoga jouranal onlineコラム「ルッキズムひとり語り」。

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。

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