のぼせ、異常発汗、不眠…つらい更年期症状を緩和する治療法・治療薬、どんな種類がある?薬剤師が解説

更年期とは?

更年期とは、閉経の前後5年ずつの合計10年間を指します。女性ホルモンのエストロゲンが“ある”状態から“ない”状態に慣れていくための期間と考えるとよいでしょう。日本人の閉経年齢の平均は約50歳ですから、更年期は45歳から55歳くらいということになります。

更年期症状と更年期障害の違い

更年期はエストロゲンの分泌量がアップダウンを繰り返しながら減少していくため、女性の体にはさまざまな不調が現れやすくなります。その症状を「更年期症状」といい、「ホットフラッシュ」と呼ばれる異常発汗やほてり、イライラ、不安感、不眠、手足の冷えなどがあります。

また、更年期症状を感じる人たちの中で約3割の人は、治療を受けないと日常生活に支障をきたすほど重い症状が現れます。このような場合を「更年期障害」と呼んでいます。

更年期症状を緩和する治療法・治療薬

更年期症状を緩和する治療法・治療薬には次のようなものがあげられます。

①ホルモン補充療法(HRT)

ホルモン補充療法(HRT)とは、更年期によって減少したエストロゲンを経口(飲み薬)もしくは経皮(貼り薬)により、補う治療法です。ホルモン剤を使うというと、抵抗感のある人も多いかもしれませんが、実際に補充するエストロゲンは、更年期の健康維持に必要とされるわずかな量。月経が順調にきている年代に体がつくっていた量の3分の1ほどです。

最小限のエストロゲンを補うことで、更年期によるエストロゲンの急激な減少をゆるやかにして更年期症状を緩和します。一般的に、のぼせ、ほてり、異常発汗、動悸など、エストロゲンの減少がダイレクトに影響を及ぼす症状なら、HRTを2カ月程度継続すると、約9割程度改善するといわれています。HRTはそれほど即効性が見込める治療法です。

②漢方薬

産婦人科医の実に97%以上が治療に漢方薬を用いているというデータもあり、漢方治療はHRTと並ぶ主力の治療法です。漢方の得意分野はイライラやうつ状態、倦怠感、頭痛、夜間の中途覚醒といった幅広い不定愁訴やメンタルの不調です。

更年期症状を抑える代表的な漢方薬は「加味逍遙散」(かみしょうようさん)です。「逍遥」とは「うろうろ歩き回る」という意味で、その名のとおり更年期の移ろい変わる症状に対して有効な薬です。

加味逍遙散は、使ってみた人の約74%が効果を感じているという報告もあり、更年期症状に対してもっとも効果がある漢方薬といえるでしょう。とくに体質が虚弱で精神不安がある人に適しています。めまい、夜間の中途覚醒のほか、イライラ、落ち込み、不安といったメンタルの症状、冷え性などに効果を発揮します。

次に「桂枝茯苓丸」(けいしぶくりょうがん)があげられます。「桂枝茯苓丸」の得意分野は、頭痛、のぼせ、ほてりで約70%の改善率が報告されています。また「当帰芍薬散」(とうきしゃくやくさん」は、めまい、立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷えなどの更年期症状を改善させることで有名です。こちらは約65%の人に効果があったと報告されています。

ちなみに、HRTと漢方は、調理器具にたとえるとHRTは電子レンジ、漢方は土鍋といわれます。HRTは、足りなくなった女性ホルモンを補充することで、出ている症状に非常に即効性がありますが、使用をやめると効果がなくなるといわれます。

一方、土鍋にあたる漢方療法は、効果が現われるまで多少時間がかかりますが、その分、副作用が少なく、効果が長く続くといった長所があります。どちらもそれぞれ良い点がありますから、上手に活用してください。

③大豆イソフラボン(エクオール)

大豆イソフラボンは大豆に含まれるポリフェノール(抗酸化成分)の一つで、女性ホルモンのエストロゲンと同じような働きをします。近年では研究が進み、大豆イソフラボンはそのままでは効果を発揮できないことが分かってきました。

大豆イソフラボンには3種類(ゲニステイン、ダイゼイン、グリシチン)があり、このうち「ダイゼイン」という成分が、エクオール産生菌という腸内細菌によって分解・代謝され、「エクオール」という成分になり、体内に吸収されエストロゲンに近い働きをすると考えられています。

しかし、エクオールを生み出す腸内細菌は、すべての人の腸内にいるわけではなく、エクオールを腸内で産生できる人の割合は、中高年女性では51.6%と約半数にとどまるという報告があります。

エクォールをつくれる人ほど更年期症状が軽いというデータがあるため、エクォールをつくれない人はとくにサプリメントなどで積極的に補うとよいでしょう。なお、エクオールの産生能力の有無は、尿検査で簡単に分かります。市販の検査キットも販売されていますので、利用するのも簡単です。

④その他の市販薬

更年期症状を緩和する市販薬も有効です。例えば、「命の母A」(小林製薬)は、ホルモンバランスや自律神経の乱れからくる、更年期の不調を改善する薬で13種類の生薬に加え、ビタミン類やカルシウムなども配合されています。

また、「ルビーナ」(アリナミン製薬)は、桂枝茯苓丸と四物湯という漢方薬を合わせた「連珠飲」(れんじゅいん)という漢方処方により、ほてり、のぼせ、冷え性などの更年期症状を緩和する効果があります。

こうした市販薬は、薬局やドラッグストアなどで手軽に購入でき、副作用が少なく、幅広い更年期症状に効果が期待できるため、試してみるのもよいでしょう。

まとめ

更年期症状は、女性ホルモンの変調によって、遅かれ早かれ、多かれ少なかれ、誰にでも起きることです。つらい症状を耐え忍ぶしかないわけではなく、HRTや漢方、サプリメント、医薬品など対処方法はいろいろあります。そして更年期は必ず終わります。

いまや女性の平均寿命は87歳を超え、人生100年時代ともいわれます。更年期という人生の折り返し地点をできるだけ楽に過ごし、次の人生の階段へよりよいステージアップになるよう、自分に合った更年期の乗り越え方を見つけ、対策を講じていきましょう。

小笠原まさひろ

東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士)理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。

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