なぜ、あの人の機嫌に振り回されるのか?脳波研究からわかった「不機嫌ハラスメント」から身を守る方法

「フキハラ」から身を守るのはフィジカルディスタンス

ストレスの厄介なところは、その記憶が脳に焼きつきやすいことです。つまり、強いストレスを感じる経験を重ねてしまうと、その印象が強く記憶に残り、そのときの場所や一緒にいた人自体にストレスを感じるようになる危険があるのです。「不機嫌ノーラ(※2)」の〝家庭内感染〟が繰り返された場合、家族の誰かの存在や家庭そのものがストレスを高める原因になってしまいかねません。では、そのような「不機嫌パンデミック(※3)」を起こさないため、そもそも「フキハラ」の被害に遭わないためにはどうすればいいのでしょうか?

最も手っ取り早いのは、「不機嫌ノーラ」を発信している人から物理的な距離を置くことです。「不機嫌ノーラ」からの距離が近いほど、また「不機嫌ノーラ」にさらされる時間が長いほど影響が大きくなるので、例えば家族の誰かが不機嫌そうにしているのに気づいたら別の部屋に早めに避難するとか、状況が許すなら外に散歩に出かけるというのもよいでしょう。上司の機嫌が悪いなと思ったらさっさとその場を離れ、必要以上に近づかないのが賢明です。

また、チームで取り組んでいるプロジェクトが行き詰まったときなども、一旦解散して、それぞれがしばらくの間、別の場所で過ごすのがよいと思います。とにかく「フキハラ」に関して言えば、まさに「触らぬ神に祟りなし」なのです。「物理的な距離を置く」というのは、「不機嫌ノーラ」の発信者になりそうなときにも、もちろん心がけるべきことです。自分自身がイライラしたりモヤモヤしたりしているときは、できるだけ一人で過ごすようにすれば、「フキハラ」の加害者になるのを未然に防ぐことができるでしょう。そういう意味では、最近ではメジャーになったテレワークは会社内の「フキハラ」を未然に防ぐ方法としてはかなり有効だと言えます。ただしそのぶん家で家族と一緒にいる時間が増え、家庭内「フキハラ」のほうはむしろ増えているかもしれません。そこはなんとも悩ましいところですね。

※1:「不機嫌ハラスメント」の略。不機嫌な態度をとることで、相手に不快な思いをさせたり、過剰に気を遣わせたり、精神的な苦痛を与えること。本人が意図している/いないに関わらず起こりうる。

※2:脳が伝える「不機嫌」な感情の電気信号「不機嫌な脳のオーラ」の略。

※3:一人の「不機嫌」が周囲に同調し、その場にいる全員の「不機嫌」が増幅すること。

「フキハラ」対策としてのストレスコントロール

「不機嫌ノーラ」から距離を置きたくても、その場を離れようとすると相手がますます不機嫌になるとか、状況的にどうしてもその場にい続けなければならないこともあるでしょう。私の場合は、自分の周りに見えない「ドーム」があることをイメージして、さらに、楽しい音楽を聴きながら作業や仕事をするようにしていますが「ネガティブな感情」をコントロールする対策を早めに講じることも大事です。

そこで、「ネガティブな感情」を代表する「ストレス」を下げる方法について、考えていくことにしましょう。第1章でもお話しした通り、「ポジティブな感情」で「ネガティブな感情」を上書きするのは簡単ではなく、効果があるとしてもそれにはかなりの時間を要します。ですから、「ポジティブな感情」の力で「ネガティブな感情」のレベルを下げようとするより、「ネガティブな感情」自体のレベルを下げる工夫をするほうが効率的だと思います。つまり、「ストレス」を早く解消することが目的なら、楽しい気分になるようなことをあれこれ試すよりも、「ネガティブな感情」から解放されるようなことをするほうがおすすめなのです。具体的にはゆったりとした音楽を聴く、心が癒されるような(例えば可愛らしい動物などの)映像を見る、といったことが挙げられます。

好きな香りを嗅ぐことにも高いリラックス効果があります。データ21は、事前に聞き取っておいた「好きな香り」を30秒間嗅ぐとストレス度を示す脳波がどれくらい治まるかを調べた実験結果です。

たった30秒間で、「ストレス度」を示す脳波は8%も弱まっています。この高い効果を見逃す手はありません。例えば、アロマディフューザーなどを使って自分の好きな香りに包まれる環境を作っておけば、「不機嫌な人」のそばにいる、つまり「不機嫌ノーラ」にさらされているときでも、ストレスをかなり抑えることができます。

好きな香水を嗅いだりするのも「フキハラ」からの防御策として有効でしょう。もしも「不機嫌ノーラ」を発信する人にとってもそれが好きな香りなら、発信者側のストレスを低減する効果も期待できます。そうすれば、「フキハラ」を元から断つことも可能かもしれません。ただし、あなたの好きな香りが、相手にとって嫌いな香りの場合は逆効果になりますので、そこは注意が必要です。

この本の著者/満倉靖恵(みつくら・やすえ)

慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授/慶應義塾大学医学部精神神経科学教室兼担教授/電通サイエンスジャム取締役CTO/株式会社イーライフ取締役CTO/博士(工学)/博士(医学)生体信号処理、脳波解析などをキーワードに、脳神経メカニズム・感情・睡眠・うつ病・認知症などに関する研究に従事。特に医工連携型研究に注力。電通サイエンスジャムと共同で、世界初の脳波によるリアルタイム感情認識ツール「感性アナライザ」を開発。リサーチ、商品開発など世界中で活用されている。心拍のみを用いた自律神経の動きに注目した睡眠の5段階解析、非侵襲ホルモン解析などの専門家。

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。

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