PFASは、テフロン加工のフライパン、防水スプレー、食品包装、さらには消火用泡剤などに広く使われている。特にPFOA(ペルフルオロオクタン酸)やPFOS(ペルフルオクタンスルホン酸)は代表的なPFASのひとつだ。このPFASは、環境中に長期間残り続け、ヒトの体内に蓄積されて肝臓や腎臓、血液に入り込み、健康を脅かすことから、「永遠の化学物質」と呼ばれ、世界的に問題視されている。そして、これが臓器の機能障害や不妊症の原因となり、さらに乳がんや卵巣がんのようなホルモン依存性のがんを引き起こすリスクが高まるのだ。国際がん研究機関(IARC)は、PFOAを「ヒトに発がん性がある可能性が高い(グループ1)」に分類。PFOSも「発がん性の可能性がある(グループ2)」に分類されている。
嬉しいことに、最新の研究で、実は食事に含まれる「食物繊維」が、これらの有害物質を体外に排出する助けになることが明らかになった。2025年3月、米ボストン大学の研究チームは、成人男性72名を対象にPFASの体内濃度を下げるための実験を行った。対象者は18歳から65歳までで、全員が血液検査でPFASが検出された。研究では、被験者のうち42名に、β-グルカンという食物繊維のサプリメント(オート麦やキノコに多く含まれる成分)を1日3回、食事の10分前に摂取してもらった。残りの30名には、コントロールとして米由来の別のサプリメントを同じ頻度で摂取してもらった。実験前と4週間後に血液を検査し、17種類のPFASの濃度を測定。すると、β-グルカンを摂取したグループは、PFOAやPFOSの血中濃度が平均で約8%減少した。一方、米由来のサプリメントを摂取したグループには変化がほとんど見られなかった。
食物繊維が体にいいのはよく知られているが、最近の研究で「有害なPFASを体の外に出す手助けもしてくれる」ことがわかってきた。その理由は次の通りだ。食物繊維は腸の中で水を吸って、ゲル状の物質になる。このかたまりが、脂肪を消化するのに必要な「胆汁酸(たんじゅうさん)」という液体をつかまえて、体に戻るのをストップする。PFASという有害物質は、この胆汁酸といっしょに体に吸収されてしまうのだが、食物繊維がブロックすることで、PFASも吸収されにくくなり、便といっしょに外に出ていく。
食物繊維には、便の量を増やして柔らかくし、排便をスムーズにする働きもある。便が腸に長くとどまると、有害物質が吸収されたり、炎症が起きやすくなったり、結果として大腸がんのリスクも高まる。つまり食物繊維は、便秘の予防だけでなく、腸内環境の改善や有害物質の排出を助け、健康をトータルに守ってくれるのだ。
アメリカでは90%以上の人が1日に必要な食物繊維量(22~34グラム)を摂取できていない。日本も例外ではなく、加工食品の増加や食習慣の変化により、食物繊維の摂取量は減少傾向にある。食物繊維が不足すると、今回のようなPFASの排出効果も期待できない。便秘や大腸がん、さらには慢性的な健康リスクが高まるため、積極的に摂ることが不可欠だ。
今回の研究で効果があったβ-グルカンは、特にオーツ麦、きのこ、そして一部の種子に多く含まれている。日常生活で無理なく取り入れるには、以下の様な方法が効果的で簡単だ。
出典:
Eating More Fiber May Help Lower PFAS Levels in Your Body, Study Finds
Eating more fiber could reduce ‘forever chemicals’ in bodies, study suggests
Scientists discover food that flushes out cancer-causing forever chemicals
山口華恵
翻訳者・ライター。大学卒業後、製薬会社やPR代理店勤務を経て10年間海外(ベルギー・ドイツ・アメリカ)で暮らす。現在は翻訳(仏英日)、ライフスタイルや海外セレブリティに関する記事を執筆するなど、フリーランスとして活動。趣味はヨガとインテリア。
2025-06-05T12:20:06Z