——夫さんは「女性はこうするべき」みたいな価値観も持ってないということで、アルテイシアさんは「ご飯を作らなきゃ」というプレッシャーもないのでしょうか。
結婚当初はむしろ私の方が「ご飯を作らなきゃ」という思い込みに囚われてたのですが、夫に「俺のご飯なんか作らなくていい」と言われて。最初は「騙す気か」「私に気を遣ってるだけかな」と思ってたのですが、100回くらい言われるうちに、心の底から言ってることがわかりました。
それでも数年前までは、夫の分も一緒にご飯を炊いて具だくさん味噌汁を作るくらいはしてたのですが、今は自分の分しか作ってないです。「今日は外で食べていこうかな」「お惣菜買って帰ろうかな」と自分の好きにできるから、すごく自由です。夫も自分で好きにやってます。
——特にアルテイシアさんの世代(40代後半)で、夫のご飯を作らない人がまだ少ないので、最初に聞いたときは「完全各自にする」という方法もあることに驚きました。
普段フェミ発言をする人でも、上の世代の人だと「夫のご飯は作らない」と言うと「かわいそう」と言われることがあって。でも、夫が妻のご飯を作らなくても「かわいそう」とはならない。上の世代はご飯の呪いが強いと感じます。
——「家族で一緒のものを食べなきゃいけない」みたいな思い込みもありますよね。各自で用意する形式なら、「昼と夜のメニューが被っちゃった」みたいなプチトラブルもなくなりますし、お子さんがいなかったり、お子さんが独立して夫婦だけになっているなら、選択肢の一つな気がします。
ご飯って一番揉めるんですよね。子どものいない夫婦でも「せっかく作ったのに帰ってくるのが遅い」「頑張って作ったのに残してる」とか。でも各自なら、自分のタイミングで自分が食べたいものを食べたい量だけ準備すればいい。
料理はやることも多いですよね。献立を考えて、買い物に行って、作って、洗い物をして……と全過程を考えると、やめたらかなりストレスがなくなると思います。
あとうちはイベント全撤廃なんです。
——誕生日や結婚記念日もですか?
そうです。結婚記念日も2人とも忘れてしまうので。クリスマス、バレンタイン、ホワイトデーと、ありとあらゆるお祝いやプレゼントを全撤廃してるので、すごく楽です。結婚3年目くらいに「これいるか?」って話になって「いらないよね」という結論に。
お互いの誕生日は何もしないですが、猫の誕生日には夫がおもちゃを買ってきて、2人で祝ってます。イベントごとは、子どもがいたらやってあげた方がいいのかもしれないですけど、大人だけなら、義務感でやってるならやめちゃってもいいと思います。
食事にしても、イベントごとにしても、やることを減らしてストレスがないので、夫婦仲良くいられるんだと思います。
——食事以外はどう家事分担をしているのでしょうか?
私は洗濯が好きなので、夫の分も一緒に洗って干すまではやってます。乾いたら夫の部屋に投げ入れて、畳むのは各自です。
掃除も私の方がするのですが、主にルンバがやってくれます。夫の部屋はクワガタや幼虫もいて、配線も複雑なので、ご自由にどうぞ、という感じです。
私が苦手なこと、たとえば電球を選んで買うとか、重いものを運ぶとかは夫がやってます。
——水回りの掃除はどうしてますか?
普段は私がやったり夫に命じたりしてますが、大がかりな掃除は、これからは家事代行を頼もうかなと思って。周りから「年に1回でも頼むとすごくいいよ」と評判を聞くので。
——猫のお世話はいかがでしょうか?
猫という生き物はそこまでお世話が必要なくて。トイレの砂を替えてご飯をあげるだけなので、お互い自然にやってる感じです。老猫の介護は夫が主に担当してました。そのときに「ケア能力が高いな」と感心しました。
——アルテイシアさんの方が担当が多いように思ったのですが、食事の準備などやりたくないことをやめているので、特にストレスにならないということですか?
掃除と洗濯だけだったら、一人暮らしのときとあまり変わらない感覚です。締切前のように私の仕事が忙しいときは、1ヶ月掃除機をかけないこともありますが、夫は気づかないので。なので自分のペースでやってますね。
——「顔を洗った後で、床が濡れてるのにパートナーが拭かない」みたいな話もあるあるだと思うのですが、衛生観念の違いで揉めることもないのでしょうか?
私が潔癖症で綺麗好きだったら夫に耐えられないと思うのですが、私も大雑把なのでそういう衝突もないですね。夫がお風呂から出た後は、ゴリラの水浴びの後みたいになってますけど(笑)。
鼻をかんだティッシュが食卓に置いてあることもあるので、「ちゃんと捨てや」と言いながら、ポイっと捨ててますね。「なんでこんなところにティッシュが!」とショックを受ける人なら厳しいかもしれませんが、私はべつに気にならないので。
——日頃、別行動が多い分、年に何回か一緒に出かけることはあるのでしょうか?
割と驚かれるのですが、うちは夫婦で外食をしないし、旅行もしなくて。夫と外食に行っても、全部丸呑みするんですよ。女友達とだと、たとえばスペイン料理店に行って、タパスを少しずつ「これ美味しいね」とキャッキャ言いながら食べるのが楽しいのに、夫は自分が何食べてるかもわかってない。
私は高校まで女子校育ちで、大人になってからも女子校っぽい生き方をしてきたのですが、女友達を優先することに対して、夫は全く嫌がらないんです。私は女友達と旅行やご飯に行ったり、家で女子会をしたりして、夫は釣りや道場に行ったり、昆虫採集したりして、それぞれ楽しく過ごしてます。
夫が肘の手術で1週間ほど入院したことがあって、夫は「お見舞いには来なくていい」と言ってたものの、何回か行ったら一人で楽しそうに過ごしてました。「暇じゃないの?」と聞いたら「ゲームをどんどん攻略できて、めっちゃ楽しい」と。夫はやりたいことが多すぎて「43億年生きたい」と言ってるような人なので、勝手に楽しそうにしてます。
——それぞれ楽しめるものがあることも大事ですね。
うちは別行動派の夫婦だから「冷めてるのでは」「愛情がないのでは」と思われることもあるのですが、仲はいい方だと思います。大親友と住んでるイメージで、2人でお酒を飲みながら2、3時間しゃべることもある。昔のホラー映画や、ジャッキー・チェンの映画を一緒に見ることもあって、「気の合う相棒」という感じです。
あとは猫の話をしたり、夫は自分の話もするので、「ちょっとこのサメの動画を見てごらん」って見せてくることも。昨今の政治の話もします。
もし夫が差別的な発言をする政治家を応援したり、自己責任論者で弱者に冷たいみたいな考えだったら、離婚していたでしょうね。今回の本の武田砂鉄さんとの対談でも「好きなものより嫌いなものが似てる方がうまくいくんじゃないですかね」という話をしたのですが、改めてそう思います。
私は衛生観念のズレより政治思想のズレの方が嫌ですね。ティッシュは捨てればいいし、濡れてる床も拭けばいいけど、政治的な考えを変える方が難しいので。あと夫は言えば何でもやりますし、指摘されたことで不機嫌になるような人でもないですし。
——アルテイシアさんは生まれた家庭がしんどかったので、一緒に安心して暮らせる家族がほしかったのですよね。「寂しいから結婚したい人」は、パートナーと一緒に行動したいイメージがあったのですが、アルテイシアさんは別行動でも大丈夫ということで、そこはどういう感覚なのでしょうか?
一人でいる時間も絶対に必要なんですが、家族も欲しかったんです。頼れる家族がいなかったですし、特に阪神淡路大震災のときに、いざというときに支え合える人がいない不安や孤独を痛感しました。
ずっと一緒にいたいわけではなく、「自分の味方でいてくれる人」という意味での家族がほしかったんです。私はいざというときの安心できる基地みたいなものが欲しくて、それが家族だった。夫という存在ができたことで、地震が起きたり、私が救急車で運ばれたりしても、緊急連絡先は夫だし、2人で支え合って生きていけるという感覚です。
——最後に、本のタイトルにもある「フェミニスト」の定義を教えてください。
私は「フェミニズムとは性差別をなくそうという考え方です」「だからフェミニストは性差別に反対する人で、その逆は性差別主義者(セクシスト)ですよ」と説明してます。
学校でジェンダーの授業をする機会もあるのですが、中高生には「フェミニズムはX(旧Twitter)とかで生まれた最近できたもの」だと思っている子も少なくないので、婦人参政権など、歴史的な話もしてます。
昔から「フェミニストは男嫌い・男の敵」という誤解をされてきましたが、フェミニストが嫌っているのは、性差別や性暴力であり、それらを容認して助長する社会といったことを話してます。そうすると「フェミニストのイメージが変わりました」「自分もフェミニストだったと気づきました」といった感想をもらいます。
【プロフィール】
アルテイシア
フェミニズムを明快に軽快に語り下ろす作家。
主な著書に、『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』『モヤる言葉、ヤバイ人』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった 』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『59番目のプロポーズ』ほか多数。
雪代すみれ
フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。
2025-05-03T11:29:38Z