脳は体重の約2%の重さしかありませんが、エネルギー消費量は全体の20%にも及びます。つまり、脳は非常に栄養を必要とする場所なのです。特に重要なのが、神経伝達物質の材料となるアミノ酸や、脳細胞の膜を構成する脂質、そして脳の酸化を防ぐ抗酸化物質です。
「ブレインフード」とは、脳の働きを活性化させる効果が期待されている栄養素が、豊富に含まれている食べ物のことです。
サバやいわしなどの青魚には、DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸が豊富で、脳細胞の膜を構成する脂質となり、脳の働きをサポートする重要な栄養素です。
ドコサヘキサエン酸(DHA)は、不飽和脂肪酸の一つで魚油に多く含まれており、記憶の形成を促進する働きがあるとされ、認知機能の改善や抗認知症作用についても多くの研究報告があります。エイコサペンタエン酸(EPA)とともに、脳の神経細胞の柔軟性を保ち、情報伝達をスムーズにする役割を果たしています。
また、魚介類に含まれるカルニチンは脂肪酸の代謝に関与するだけでなく、脳機能の改善にも役立つとされ、近年その効果に関心が高まっています。
ニワトリのたまごには、n-6系不飽和脂肪酸(PUFA)の一つであるアラキドン酸が豊富に含まれています。アラキドン酸は、脳の老化をゆるやかにする働きがあると注目されています。また、脳の細胞を元気に保つためにとっても大切な栄養素で、脳の構造を守ったり、情報をスムーズに伝える手助けをしてくれるので、記憶力や集中力をサポートしてくれます。ほかにも、卵にはアミノ酸がバランスよく含まれており、脳の情報の伝達や精神の安定にも関わっています。
緑茶成分であるテアニンは、リラックス効果だけでなく、脳を守ったり、記憶力や集中力を高めたりする働きがあります。たとえば、脳に強いストレスがかかったときに神経細胞が傷つくのを防いだり、脳の中で情報を伝達する物質のバランスを整えたりするなど、多方面で脳機能を支える可能性があることが明らかになっています。また、緑茶には抗酸化力のあるビタミンCやビタミンE、カテキンなどが豊富で脳の酸化を防ぐ効果があります。
ただ食材を選ぶだけでなく、食べ方にも工夫することで、脳への効果を最大限に引き出すことができます。
血糖値の急上昇は、集中力の低下や眠気の原因になります。玄米や全粒パン、野菜などの低GI食品を選ぶことで、安定したエネルギー供給が可能になります。
朝食を抜くと、脳へのエネルギー供給が不足し、集中力や判断力が落ちてしまいます。ごはんやパンなどの炭水化物のほかにも、卵や納豆、青魚などのたんぱく質も一緒に摂りバランスの良い朝食を意識しましょう。
ハンバーガーやフライドポテトなどのカロリーは高いが栄養が少ないジャンクフードは、トランス脂肪酸や過剰な糖分は、脳の炎症や酸化ストレスを引き起こす可能性があります。摂りすぎには注意しましょう。
ストレスが多い現代では、脳の疲れを感じることも少なくありません。そんなときこそ、日々の食事を見直すことが脳のパフォーマンスを高める第一歩です。青魚や卵、緑茶などの「ブレインフード」を意識して取り入れ、低GI食品や朝食の工夫でエネルギーを安定供給することが、集中力や記憶力の向上につながります。食べ方を少し変えるだけで、脳はもっと記憶力や学習能力が上がり、力強く働いてくれます。
【参考文献】食品成分と脳機能の研究動向013
脳機能の維持・改善に寄与る食品・成分に関する調査研究
氷室えり
管理栄養士。病院での大量調理業務・栄養士業務経験後、もっと一人ひとりに寄り添った栄養ケアや「人が食べるとは生きていく上でどのようなことなのか」との自分の中での疑問追求のため、現在では保育園が併設されている特別養護老人ホームで献立作成や栄養マネジメント業務を日々行っている。最近では、最後まで美味しく食べられるための摂食・嚥下やその人らしく生きられるため食事ができることについて他職種とディスカッションし学びを深めている。
2025-11-04T09:08:54Z