胸にピリピリとした痛みの原因としては、逆流性食道炎、肺炎、肺塞栓症、肋間神経痛、帯状疱疹、自然気胸などだけでなく、狭心症、心筋梗塞、解離性大動脈瘤、心膜炎など心臓病を含みます。
これらに関連する胸の痛みは、鋭く刺すような痛みや、チクチクする痛みである場合もあります。
焼け付くような感覚や圧迫感と同時に体のだるさや呼吸困難が現れる際には、裂けるような強い痛みが前胸部や背中を移動する場合は、心筋梗塞や大動脈解離など命に係わる重篤な病気である場合が考えられます。
若い人の胸痛は、狭心症など命にかかわるような心臓病が原因で起こることはほとんどありませんが、専門医療機関でのMRI、CT、エコー、心電図、食道内圧検査、胃カメラなどの検査を受けることが大切です。
精密検査で器質的な異常がなければ、胸がピリピリ痛む原因としてストレス(心因性)などが考えられます。
そうした場合には、胸の痛みだけでなく、胸苦しさ、胸が重い、胸の詰まり感などの症状を伴うパターンも見受けられます。
心臓病には、さまざまありますが、代表例としては、虚血性心疾患や大動脈解離が挙げられます。
虚血性心疾患とは、心臓の筋肉に酸素や栄養を送り込むはたらきを担っている冠動脈が狭くなったり、閉塞したりすることで血流障害を起こす病気です。
この病気は、主に高血圧や糖尿病、肥満などにより冠動脈が動脈硬化を起こすことを原因として発症します。
虚血性心疾患は、労作性狭心症、安定狭心症、および急性冠症候群に大きく分類できます。
胸痛や息苦しさが代表的であり、特に労作時や運動時は多くの酸素を必要とするため、運動に伴って胸部症状が現れやすいです。
冠動脈の血管の狭窄が強くなったり、動脈硬化性病変が不安定になったりすると、安静時にも胸痛が出るようになりますし、もっとも危険な急性冠症候群では胸痛が持続し、ときに意識消失をきたすこともあります。
胸痛や息苦しさなどが現れて、狭心症の場合には症状は短時間で改善しますが、心筋梗塞を発症すると症状は持続し、命に直結することもあります。
虚血性心疾患の発症には日々の生活習慣が大きく関わっており、規則正しい生活を送ることが発症の予防につながります。
大動脈解離とは、大動脈の壁の血液が流れる側である内膜に突然亀裂が入って、裂けてしまって心臓付近が痛くなる病気です。
大血管の壁の中に血液が流れ込み、本来の血液の流れとは別の流れ道ができて大動脈の壁が二腔構造になります。
大動脈壁が薄くなることで外膜が避けると破裂を起こして、死に至る可能性がある疾患ですし、裂ける部位によっては枝分かれしている血管が閉塞や狭窄を起こして、心筋梗塞や脳梗塞、下肢虚血など様々な合併症を発症する危険な病気として認識されています。
大動脈の壁に血液が流れ込む内膜の傷を「エントリー」、血液が流れ込むことで形成される大動脈壁内のスペースを「偽腔」、本来血液が流れている大動脈内腔を「真腔」と呼び、血管内腔に傷ができる原因は高血圧や大動脈壁の脆弱性、動脈硬化などが複雑に絡み合っています。
大動脈はいろいろな全身の臓器に重要な血液を送るために、様々な場所に枝分かれしていますが、そうした分岐部にまで解離所見が及ぶことで、偽腔が分岐した血管を狭窄させて、その先の臓器に血液が流れにくくなることもあります。
大動脈解離は解離が起こった部位によって、スタンフォードA型とスタンフォードB型に分類されます。
・A型は上行大動脈に解離があるタイプ
・B型は上行大動脈に解離がないタイプ
A型の場合には緊急的に手術治療が必要な状態です。
胸がピリピリ痛いと言っても、どのあたりがどのように痛いのかによって、受診すべき適切な診療科は異なります。
胸の全体が痛み、締め付けられるような症状がある場合は、虚血性心疾患や大動脈解離などを含む心臓病を疑って、循環器内科や心臓血管外科を受診するほうが適切です。
胸や背中の突然の激痛、胸の中央が締め付けられる、または圧迫されるような痛みが30分以上続く、急な息切れや呼吸困難が出現する、胸や背中の痛む箇所が移動する、突然気を失うなどの症状があった場合には、すぐに救急外来を受診してください。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
2025-06-10T12:09:41Z