心理的フレキシビリティとは、変化する状況や困難に直面した際、柔軟に自分の思考や行動を調整できる能力を指します。認知行動療法の仲間であるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)という心理療法で重要な概念として扱われています。ACTでは、「苦痛や困難な感情は避けるものではなく、受け入れた上で価値観に基づいた行動をとる」ことを重視します。ストレスが多すぎる社会ではストレスを回避すること、無くすことは難しいです。そのため、ストレスがあること、ストレスの影響を受けている自分を受け入れた上で、行動していくことが大切です。
心理的フレキシビリティは、以下の6つのプロセスで構成されるとされています。
①今この瞬間に気づく(Mindfulness):過去のこと・未来のことではなく現在に注意を向け、今ここに集中する。
②受容(Acceptance):不快な感情や思考を抑え込むのではなく、ありのまま受け入れる。
③価値観の明確化(Values Clarification):自分にとって大切なことを明確にする。
④価値に基づく行動(Committed Action):大切にしたいことに基づいて行動する。
⑤認知的脱フュージョン(Cognitive Defusion):思考にとらわれすぎず、客観的に捉える。
⑥文脈としての自己(Self-as-Context):思考や感情の内容ではなく、経験の一部として捉える。
心理的フレキシビリティが低い場合、人は困難やストレスに対して以下のような行動を取る場合があります。
苦痛を避けようとして問題に直面するのを避ける。
自分の思考や感情にとらわれすぎて柔軟に行動できない。
自分の大切な価値観を見失い、無意味な行動に終始する。
このような行動を続けた結果、うつ、不安症など、心や身体の健康問題につながることがあります。
心理的フレキシビリティを高めるための方法は、特にACTを中心とした実践が効果的です。以下を参考にしてください。
現在の呼吸や感覚に注意を向ける練習を通じて、今この瞬間に集中する力を養います。例えば、呼吸に注意を向ける、感覚に注意を向けるなど「呼吸瞑想」や「ボディスキャン瞑想」が有効です。
マインドフルネスを練習して感覚に意識を向けることに慣れてきたら、自分の感情や考えなどに意識を向けます。不快な感情や思考を否定や抑制するのではなく、それを「あるがまま」に受け入れる練習をしましょう。例えば、「怒りがあるのは自然なこと」と認めたり、「不安になってもいいんだよ」と心の中に不安を受け入れるスペースを作ります。
頭の中で考えていること(思考)を事実と混同せず、「ただの思考」として距離を置きます。例えば、仕事を失敗した場面で「私はダメな人間だ」「次もまた失敗するんだ」という思考が浮かんできても、「私がそう考えているだけだ」「事実か分からない」と捉えます。
自分が人生で何を大切にしているかを明確にし、それに沿った行動をとる。例えば、「誠実でありたい」「人の役に立ちたい」など、様々な場面で自分のあり方や方向性を定めてくれるようなものです。どんな風に生きたら後から後悔しないかなと自分の価値観を明確にしてみましょう。
自分の価値観に基づいた行動を続けていくこと。何か目標があれば小さなステップでは始め、トライアンドエラーで進めていきましょう。
石上友梨
大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。
2025-02-02T11:07:00Z