下肢静脈瘤とは、足の静脈がクネクネと曲がって膨らんだ状態です。
「下肢静脈瘤の初期は無症状ですが、足のつり、だるさ、むくみなどの症状が徐々に現れてきます。ひどくなると、湿疹、かゆみ、色素沈着、皮膚が硬くなるなどの皮膚炎の症状が起こります」と齋藤陽先生。
血液の流れは、心臓から始まって、動脈が栄養や酸素たっぷりの血液を運びます。一方、静脈は末端の足の先から出たゴミ(老廃物)を運んで心臓に戻します。たとえるなら動脈が上水道で、静脈は下水道の役割。
「静脈は、心臓に血液を戻すため、重力に逆らう必要があります。そのため、“筋肉のポンプ作用”と“静脈の逆流防止弁”というふたつの仕組みがあります。第二の心臓と言われるふくらはぎの筋肉が静脈をモミモミして血液を戻します。そして、静脈に数センチおきに存在する弁が血液の逆流を防止し、いったん昇った血液を下に落ちないようにしているのです」(齋藤先生)
下肢静脈瘤の程度は、見た目だけではわかりません。ボコボコ目立つ静脈瘤は足のつり、むくみ、だるさと同様に、静脈の逆流が原因でできた症状のひとつです。下記の項目にあてはまる場合は、下肢静脈瘤の可能性があります。
【下肢静脈瘤セルフチェック】
・寝ているときに足がつる
・足が重だるく、むくむ
・両親のどちらかに下肢静脈瘤がある
・太ももやひざの裏側の毛細血管が目立つ
・足のすねやふくらはぎの血管が浮き出てきた
・なかなか治らない足の湿疹、かゆみがある
・くるぶしの皮膚が茶色くなってきた
・すねの皮膚が硬くなってきた
・足の傷がなかなか治らない
下肢静脈瘤は、立ち仕事やデスクワークの多い人にリスクがあります。男女比は3対7と圧倒的に女性に多い病気で、妊娠・出産経験のある女性の2人に1人が発症するとも言われ、更年期以降、増える原因があると言います。
「おもに女性ホルモンのバランスの変化とそれによる血行や代謝の低下が影響しています。女性ホルモンのエストロゲンは、血管拡張や血行の調整をしてくれています。しかし、更年期でエストロゲンが減少すると“筋肉のポンプ作用”と“静脈の逆流防止弁”の働きが低下し、筋肉中の老廃物が滞留しやすくなり、結果として足のつり(筋肉の痙攣)、だるさ、むくみなどの症状を起こしやすくなります」(齋藤先生)
ほかにも更年期以降は、骨密度や筋力の低下、疲労蓄積、肥満と運動不足、便秘などが起こりやすく、これらも下肢静脈瘤のリスクになります。また、両親が下肢静脈瘤の場合、約90%が子に遺伝するとも言われています。
足がつる、むくむなどの症状ある場合は、早めに受診したほうが下肢静脈瘤の予防に役立ちますか?
「受診の目安は、1か月以上、週3回以上つる、短い間隔で何度も足がつる、痛みが非常に強く日常生活に支障が出る、つったあと筋肉痛が半日以上続くなどの場合は、受診してください。
下肢静脈瘤のセルフチェック(前述)も参考にしてください。下肢静脈瘤以外にも、糖尿病・糖尿病性末梢神経障害、甲状腺機能低下症、腎臓病・肝臓病、末梢動脈疾患(動脈硬化など)、脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニア、副甲状腺機能異常などによるミネラル代謝障害などの可能性もありますので、自己判断せず、病院で診断をしてもらったほうが安心です」(齋藤先生)
足がつる、むくむ、足の静脈が目立つなどがある場合、受診前にできることはありますか?
「ふくらはぎの筋肉を動かす運動はいいと思います。けれども運動をしても、その後、座りっぱなしの時間があるとリスクになります。治療にも役立つ、弾性ストッキングを履くことをお勧めします。ハイソックスタイプで構いません。受診前は市販のものでもいいですが、受診後は医療用を使われると効果が全く違います。弾性ストッキングは、夜寝ているときよりも、日中に履くことが重要です」(齋藤先生)
下肢静脈瘤は、血管外科や心臓血管外科、循環器内科などを受診します。いずれも近くにない場合は、外科になります。病院では、超音波検査で静脈の太さではなく、静脈の逆流の有無や程度を調べ、どれが静脈の逆流かを確認します。
「問診、視診のほか、診断になくてはならいのが超音波検査です。静脈の走行、太さ、逆流の有無、深部静脈血栓の有無もわかります。治療が必要なのは、①見た目が気になる、②症状に困っている、③うっ滞性皮膚炎がある場合です。
①②の見た目や症状は、本人がつらくなければ治療しなくても構いません。医療用の弾性ストッキングでもいいでしょう。ちなみに、下肢静脈瘤で足が腐って切断になることはありませんし、血栓ができて肺塞栓症になることもありません。血管のボコボコの外見のひどさは、静脈瘤の進行度に比例しません。大事なのは静脈の逆流の程度で、これは超音波で確認できます。
①②で気になる方と、③の方の根本治療は、現在、日帰り治療できるカテーテルによる血管内焼灼術(レーザーと高周波があります)が主流。保険適用になっています。静脈を切除するストリッピング手術は、過去の治療になりました。また、誰にでも両脚の手術を勧める病院は、要注意ですので気をつけてください」(齋藤先生)
「下肢静脈瘤の足のつり、むくみなどは、カリウム(バナナなど)の摂取、冷えのケアだけでは改善できません。対策としては、日中に履く弾性ストッキングが有効です。睡眠中のつりを改善するためにも、日中に履くことが大事です。また、足がつりやすい人のために、ふくらはぎや足裏の筋肉をほぐし、血行を促進する簡単な体操やストレッチ方法がありますのでご紹介します」(齋藤先生)
壁に向かって立ち、片足を一歩後ろに引きます。後ろ足のかかとが床につくようにし、前足の膝をゆっくり曲げて体重をかけていきます。ふくらはぎが心地よく伸びるところで20~30秒キープします。
椅子に腰をかけ、足裏にテニスボールかゴルフボールを置いて軽く前後左右に転がします。強く押しすぎず、足裏全体がじんわりと刺激される程度に1~2分。足裏がこわばりやすいタイミングに行います。
目黒外科 院長
日本大学医学部卒業後、同大第二外科入局ほかを経て2017年より現職。下肢静脈瘤ひとすじ28年。これまでに行った手術は8500件以上。2020年から5年連続下肢静脈瘤レーザー手術件数日本一。テレビ、YouTube目黒外科チャンネルでも活躍。著書に『世界一分かりやすい下肢静脈瘤の治療と予防』(医学通信社)ほか。
増田美加
増田美加・女性医療ジャーナリスト。予防医療の視点から女性のヘルスケア、エイジングケアの執筆、講演を行う。乳がんサバイバーでもあり、さまざまながん啓発活動を展開。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。NPO法人みんなの漢方理事長。NPO法人乳がん画像診断ネットワーク副理事長。NPO法人女性医療ネットワーク理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。新刊『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』(オークラ出版)が話題。もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択 | 増田美加 |本 | 通販 | Amazon
2025-05-03T11:29:39Z