「嫌われたくない…」人間関係を「つい回避してしまう」回避的傾向との向き合い方は|心理師が解説

回避的傾向とは

回避的傾向とは、失敗・拒絶・批判といったネガティブな経験を強く恐れるあまり、それを避けるように行動する心理的な傾向のことです。

たとえば、新しいことに挑戦したい気持ちはあっても、「自分には無理かもしれない」と感じて動けなかったり、人と深く関わりたいのに、「傷つくのが怖い」と感じて距離を取ってしまったり。本人にとっては“安心のための選択”なのですが、その安心が長く続くほど、逆に孤独を感じやすくなったり、成長の機会を逃してしまったりします。

表面上は穏やかに日々が過ぎているように見えても、ふとした瞬間に感じるのは、どこか満たされない気持ちや、自分が前に進めていないという焦りかもしれません。背景には、「完璧でなければならない」「失敗は恥だ」といった思い込みや、過去に傷ついた体験が影響していることもあります。

日常での回避行動の例

回避的傾向は、日常のさまざまな場面で現れます。たとえば職場では、会議中に「自分の意見を言いたいけれど、変なことを言ってバカにされたらどうしよう」と黙り込んでしまうことがあります。あるいは、「上司にお願いすべきことがあるけど、嫌な顔をされるのが怖くて言い出せない」など、必要な行動を後回しにしてしまう場面もあるかもしれません。

プライベートでは、「気になる人がいるけど、連絡して迷惑がられたらいやだな…」と何もしないままに終わる恋愛、また「転職したいけれど、失敗して今より悪くなったら困る」と動けないまま数年が過ぎることもあります。一つひとつは小さな“回避”ですが、それが積み重なることで「なにも変えられない自分」への苛立ちや、自信の喪失につながっていきます。

心身への影響

回避的傾向は、自分が思っている以上に心身に影響を与えます。まず、挑戦しなかった自分を後から責めてしまうことがよくあります。「また動けなかった」「あのとき、やっていれば」と、自分を責める言葉が心の中に積もっていきます。また、人との関係が表面的なままになり、深い繋がりを感じにくくなったり、「このままでいいのかな」と虚無感に襲われることもあります。挑戦や関係の深化を避けているうちに、自己成長の機会が減り、さらに「自信がないから動けない」「動かないから自信が育たない」という悪循環が生まれてしまうのです。

回避的傾向との向き合い方

この傾向を乗り越えるには、いきなり大きく変わろうとしないことが大切です。むしろ、「ちょっとだけ不安だけど、なんとかできそうなこと」から始めてみましょう。たとえば、会議で「一言だけ意見を言ってみる」、オンライン講座に「申し込んでみる」、気になっている人に「簡単なメッセージを送ってみる」など。不安はゼロにはなりませんが、「やってみたら思ったほど怖くなかった」「少し達成感を感じた」という経験は、確実に自分の中の“安心ゾーン”を広げてくれます。

また、安心できる人や場所で練習するのも効果的です。信頼できるカウンセラーや友人などと一緒に「避けなかった経験」を重ねていくことで、少しずつ新しい行動が自分のものになっていきます。

回避は、本来あなたを守るために身についた大切な「コーピング(対処法)」でもあります。だから、回避する自分を責める必要はありません。しかし、コーピングは同じものだけに頼るのではなく、幅広いコーピングを持てた方がよりストレスに強い自分になれます。もし、「もう少し世界を広げてみたい」と感じられるなら——その一歩は、小さな「避けなかった経験」から始められます。自分のペースで、ほんの少しだけ安心ゾーンを広げていく。それが、未来の自分を少しずつ変えていく力になります。

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。

2025-05-07T12:16:46Z