イギリスの内分泌専門医ガウラヴ・アガルワル医師によると、必要以上に早く目が覚めてしまうのは、「甲状腺機能亢進症」の初期サインである可能性があるという。甲状腺機能亢進症とは、首にある蝶のような形の甲状腺が過剰にホルモンを分泌し、心拍や体温、代謝、エネルギーレベルが異常に高まる状態で、身体が常に緊張しているように感じられるのが特徴だ。主に20〜40代の女性に多く見られ、イギリスでは100人に1人が発症している。
その原因として最も多いのが、自己免疫疾患の一種である「バセドウ病」だ。これは、免疫システムの異常により、自分の甲状腺を攻撃する抗体が作られ、ホルモンの分泌がコントロール不能になる病気である。バセドウ病のリスクは、遺伝的な体質に加えて、喫煙や過度のストレスなどの環境要因によっても高まる。特に30代以降の女性は注意が必要で、目が飛び出すように見える「眼球突出」や、かゆみ・複視を伴う「甲状腺眼症」など、見た目に大きく影響する症状が出る前に、早期の発見と治療が望まれる。
甲状腺ホルモン(T3とT4)は、代謝を司る重要なホルモンである。このホルモンが過剰になると、交感神経が過敏になり、深夜や早朝に目が覚めてしまう「早朝覚醒」が起こる。さらに、ストレスホルモン「コルチゾール」も過剰に分泌され、眠りが浅くなったり、寝つきが悪くなったりする悪循環に陥るのだ。イギリスの睡眠支援団体「The Sleep Charity」の副代表リサ・アーティス氏は、「甲状腺が過剰に働くことで、ストレス応答が過敏になり、朝4〜5時台に目が覚めてしまうことがある」と警鐘を鳴らす。
この病気に悩まされていたのが、映画『スター・ウォーズ』シリーズのレイ役で知られるハリウッド女優デイジー・リドリー(33歳)だ。彼女は心理スリラー映画『Magpie(原題)』の撮影後、ほてり、動悸、手の震え、極度の疲労感といった体調不良を感じたという。当初は役作りによるストレスだと考えていたが、医師の診断でバセドウ病と判明した。その後、彼女は食事改善や運動など生活習慣を見直すことで、症状のコントロールに成功した。
甲状腺機能亢進症の症状は実に多岐にわたる。代表的なものは以下のとおり:
また、長期間放置すると、骨粗鬆症、心房細動(不整脈)、心不全といった重篤な合併症を引き起こすこともある。妊娠中の女性が発症すると、早産や流産のリスクが高まるため、特に注意が必要だ。)
イギリスのベッドメーカー、シモンズ社の調査によると、成人の3人に1人(約32%)が「夜中や早朝に目が覚めてしまう」という睡眠問題を抱えており、特に25〜34歳の若年層では37%が頻繁に悩まされているという。これは日本人にも共通する問題だ。仕事や育児のストレス、不規則な生活リズムによって早起きが「習慣化」しているように見えて、実は甲状腺異常のサインであることも。「疲れているのに早く目が覚めてしまう」「最近やたらと汗をかく」「心臓がドキドキする」——こうした症状が複数重なっているなら、ただの生活習慣ではなく、医師に相談するタイミングかもしれない。
甲状腺機能亢進症は、血液検査によって簡単に診断できる。治療は投薬や放射性ヨウ素療法、重症例では外科手術が選択肢となる。アガルワル医師は「適切な治療を受けることで、数週間〜数か月で症状が落ち着くことが多い」と語る。早起きが続くという些細な変化を見逃さず、心と体の声に耳を傾けることが、健康を守る第一歩だ。
出典:
Always wake up early? It could be ‘hidden’ symptom of a life-changing illness that needs treatment
EARLY BIRD Always wake up early? It could be a sign of hidden condition that ‘destroys libido and triggers heart failure’
山口華恵
翻訳者・ライター。大学卒業後、製薬会社やPR代理店勤務を経て10年間海外(ベルギー・ドイツ・アメリカ)で暮らす。現在は翻訳(仏英日)、ライフスタイルや海外セレブリティに関する記事を執筆するなど、フリーランスとして活動。趣味はヨガとインテリア。
2025-06-06T12:09:29Z