前編に続き、写真と文 七緒さんに、セルフケアについてお伺いします。前編では、七緒さんがセルフケアをはじめたきっかけや、面倒くさがりやの人におすすめのセルフケア、またセルフケアを実践していく中でのご自身の心と体の変化について伺いしました。後編では、セルフケアの発信をはじめて得られたこと、またセルフケアを続けた賜物として出会った鎌倉のご自宅についてお話を伺いました。
– これまでセルフケアを実践していく中で、周りからの反響はありましたか?
七緒さん: はい、ありました。特に植物療法を学び始めた頃からは、考え方だったり、かける言葉が変わった、とよく言われるようになりましたね。また、1年半前からインターネットラジオ『心地よくきく、セルフケアジャーニー』を始めたんです。その反響は、結構大きかったので、自分でも驚いています。というのも私は普段、暮らしや人物を撮影する仕事が多く、セルフケアの印象はなかったと思うんです。それに、発信する自信があったわけでもないし、自分の内面の話もすることにもなると思うので、少し躊躇しました。けれど、思い切って始めてみたら、周りから「聞いているよ」「これ良さそうだったから、試してみたよ」と声をかけられたので、すごく嬉しかったです。
– ラジオを始めた思い切りは、どこからきたのでしょうか?
七緒さん: ラジオを始める少し前に、長野県にある『穂高養生園』という場所に2泊3日のリトリートに行ったんです。そこで「これから、自分はどうしていきたいのか」といったジャーナリングをずっとしていました。その時、15年続けてきたセルフケアの知恵や考え方を出していきたいとはっきり思ったんです。前々からそういった気持ちに薄々勘付いてはいたのですが、その時にはっきりそう思いました。
– リトリートで心身が整い「発信する」という心の準備ができたというところでしょうか。
七緒さん: そうかもしれません。それからラジオを始めて、セルフケアの連載が『天然生活』で始まったり、こうやってインタビューの機会もいただいて、すごく良い方向に変わっていったという実感があります。
– セルフケアについて発信することに対して自信は持てるようになりましたか?
七緒さん: 少しずつ持てるようになったと思います。おそらく自信を持とうと思ってすぐに持てるものではないと思うんですよね。日々の小さな積み重ねだと思っています。自分を自分で認められると、不思議なことに他人からも認められていくんです。自分と他人の両軸が一つに積み重なって、自信につながったと思っています。
– 前編のインタビューでも、長年「他人から認められたい」と思っていたとお話しされていましたが、発信するという行為で、そういった気持ちも満たされるようになっていったのかもしれませんね。
七緒さん: それは、すごくあると思います。あと、とても転機だと感じているのが、女優の前田敦子さんを毎月撮りためた写真集『前田敦子の"月月"』の展示会を渋谷のパルコで2年前に開催した時のことです。会場で、私の撮った写真を見て涙を流す方がたくさんいらっしゃいました。当時は、まだまだ自分のことばかりを考えて生きていましたが、自分が撮る写真や書く文章を見て涙を流す人がたくさんいることは、すごく幸せなことだと心から感じました。それで、誰かが喜ぶことや、誰かの心に響くことをしていった方が、私は本当の意味で満たされるんじゃないかって思ったんです。
– 1年前に東京から鎌倉山にお引越しをされたんですよね。
七緒さん: はい。この家は、セルフケアを続けてきたからこそ出会えた賜物だと思っています。
– セルフケアと家探しと、どういったつながりがあるのでしょうか?
七緒さん: 2つあります。1つは、植物療法を学んだことで、ハーブや植物に囲まれて暮らしたいという思いがあったことです。幼少期に住んでいた神戸のように、山と海が近くにあって、庭があるのびやかな一戸建てという本心に従って探していた所、巡り合うことができました。
– 素敵ですね。
七緒さん: 2つ目は、ケアを重ねて直感が鋭くなっていたからこそ、住むことを決断できたと思います。私は、セルフケアを重ねることは、自分の気持ちに素直になることだと思っているんですよね。特に植物療法を学ぶようになったこの5年は、その力が少しずつ冴えてきていると感じています。だから、この家を内覧した時に「ここだ」と思えました。実は、この物件は築50年の古民家なんです。不動産屋さんから伺った話しによると、何十人も内覧には来ているけれど半年以上入居者が決まらないとのことでした。正直言って、頭だけで考えたら絶対に選ばなかったと思います。壁紙は剥がれかけていて、庭もぼうぼうで(笑)でも一方で直感的にここならきっと心地の良い生活が送れると思ったんですよね。光が美しくて、植物に囲まれて、静けさがあって。おそらくセルフケアを重ねていくことで、自分の気持ちに素直になるっていう練習ができていたからこそ、決められたんだと思います。
– そういったことは、ありますよね。ここぞという時に働く直感は偉大なパワーを持っている気がします。住みはじめてみて、その直感は当たっていたと思いますか?
七緒さん: そうですね。実は、これもすごく面白い話なんですが、住むことを決めたら物事がするする良い方に進んでいったんです。例えば、ボロボロになっていた壁紙をオーナーさんと不動産屋さんが漆喰で塗って整えてくれたり、キッチンを美しい業務用ステンレスキッチンに変えてくれるなど。すごく住みやすいようにしていただいて、感謝しています。
– 良かったですね。鎌倉にお引越しされてからは、セルフケアとの向き合い方も変わりましたか?
七緒さん: 東京は今も大好きなんですが、引っ越す前はセルフケアをすることが特別なことだったように思います。一方で、鎌倉での生活は、日常とセルフケアが一緒になったような感じです。だから、より肩の力を抜いて生活できます。毎日絵本の1ページのような暮らしをしていて、本当に満たされています。例えば、庭にたくさんの果樹や樹木があり、毎朝、鳥たちが訪れます。今朝はチューリップの芽が出ていて、息子と一緒に喜びました。そういった季節のうつろいに、心をときめかせながら過ごすことが、私にとってはとても心地よいことだったんだなと、日々噛み締めています。これまでもお話してきた通り、「誰かに認められたい」「一流になりたい」といったことに固執してきましたが、それがどんどん削ぎ落とされていくような心地で、すごく心が軽くなったように思います。
– 暮らすこと自体がセルフケアなんて、とても素敵です!最後に、今後について教えて下さい。
七緒さん: これまでお話してきた通り、セルフケアはすごく価値のあるものだと思っています。自分で自分の体や心を楽にしていくことができますから。一方で、セルフケアは特別なものでもないと思うんです。ちょっとしたことで、充分に変わると、私は信じています。これからも、簡単で、すぐ真似できて、心身が楽になる…そういったセルフケアを発信して、少しでも皆さんの暮らしの役に立てたらいいな、と思っています。
【プロフィール】七緒|写真と文
写真と文。人や暮らしにまつわる撮影・インタビューを手がける。代表作に「前田敦子の"月月"」。1児の母。鎌倉山の麓に暮らしながら、植物療法士としても学びを深めている。
インスタグラム:@naotadachi
ラジオ(voicy):心地よくきく、セルフケアジャーニー桑子麻衣子
1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。
2025-03-10T09:07:25Z