その際、どこまでが精神科的な治療などが不要なレベルで、どこからが心の病気の可能性などを考えて受診を検討すべきレベルか、その狭間はなかなか微妙なものです。
今回は冒頭に挙げたようないくつかの具体的な状況を例に、どのような状況になっていると心の病気の可能性を考慮すべきかを解説します。
例えば、自分も他人も納得できるような理由がなく30分以上も念入りに手洗いを続けないと気が済まないような場合、行き過ぎなのは明らかと判断できるでしょう。精神医学的にも「強迫神経症」などの病気の可能性を疑うケースです。
では、その境界線はどこでしょうか? 具体的には、1回の手洗いに何分かけていれば、こうした心の問題を考えるべきでしょうか。状況が個々人で違うこともあるため、「何分」と時間だけで定義するのは難しいものです。重視すべきポイントは、その手洗い行動によって、日常にどの程度問題が現われているかという点です。
たとえば手洗いに1回5分以上かける場合でも、それが外出先からの帰宅時のみで1日1~2回程度ならば、日常生活にそれほど大きな問題は出ないと思います。平均よりもかなりきれい好きな性格と捉えられるかもしれませんが、困っていなければ、直ちに治療が必要なものとは考えなくてよいでしょう。
反対に1回1分程度の手洗いという場合でも、もし1時間に2~3回以上手洗いをしないと気が済まなくなっているような場合、本来であれば必要のない手洗いのために、日常ですべきことがこなせなくなっている可能性があります。
心の病気の可能性や精神科受診を考えるべき1つの判断の目安は、このように「日常生活にはっきり問題が現われ始めているか」という点です。具体的には手洗いに限らず、自分も他人も納得できないようなことに毎日時間を費やしてしまう場合、日常生活にも弊害が現われやすくなります。もしそうした状況にある場合は、精神科や神経科の受診をぜひ考慮してみてください。
個々人の個性と見なせる面もありますが、手洗い同様、もし行き過ぎている場合は、精神医学的に注意すべき問題が関わっている可能性も考えなくてはなりません。たとえば「うつ病」の場合、自分に自信を持ちにくくなり、他人の評価、特に他人の自分に対するネガティブな評価に対して、必要以上に敏感になることがあるからです。しかしこのような単一の事柄だけでうつ病と決め付けてはいけません。
例えばこのような問題は、ストレス状況に直面した際の、心理的対処の問題と見ることもできます。心理学用語で「心の防衛機制」と呼ぶものです。
いつまでも悪口が頭に残って気持ちが立て直せない場合、ストレス状況から自分の心を守るメカニズムとしての心の防衛機制がうまく機能しなかったと見ることもできます。心の病気ではなく、成人していても心の防衛機制が充分に成熟したレベルになっていない可能性もある、ということです。たとえば思春期の若者は、大人よりも、友人からの悪口に深く傷つきやすいものです。成人してからも、思春期同様、必要以上に深く傷ついてしまう可能性はあります。
このような場合、心の防衛機制を成熟させていくことが1つの達成すべき目標とも考えられます。具体的にはユーモアに転化したり、何かに昇華したり、上手に気分転換を図ったり……とそれぞれに合った方法で心の防衛機制を効かせ、悪口のダメージを上手くかわしていきたいところです。また、もし悪口が自分にも非があったと感じるものであれば、それがよい機会になって自分の悪い点が改まった、と考えることも、心を軽くするのに有効なことがあります。
うつ病の可能性を考えたい状況は、気持ちの落ち込みやイライラ感の原因が単に悪口を言われただけでなく、それがきっかけになって脳内の機能が、治療が必要なほど病的になってしまった状態です。その目安としては症状の深刻さとそれがどのくらい持続しているのかの2点が重要です。具体的にはもし1週間以上、普段の自分通りに振る舞えないようなレベルで問題が持続しているようならば、精神科受診も考慮してみてください。
このような確認行為が精神医学的に注意すべきレベルと考えるポイントは、先述した手洗いの場合と同様、日常生活に明らかな悪影響が現われているかどうかです。具体的には戸締りチェックが原因で、毎日のように職場に遅刻してしまうといったケースです。
そしてこうした状況になっている場合、自分でコントロール可能かという点も、はっきりさせるべきポイントです。もし、つい何度も確認してしまう癖があるけれども、しっかり考えて納得できれば1回確認しただけでも大丈夫というような場合、精神疾患に関わるレベルとは見なし難いです。しかし、もし頭でどう考えても不安感が消せず、不合理とわかっていても行動が止められないような場合はやはり注意が必要です。そのような場合は、精神科を受診して相談してみることが最善の解決策になり得ることを、ぜひ頭に置いておいてください。
過食症では食べた後の嘔吐が現れやすい問題ですが、嘔吐を伴わないケースもあります。そのため、吐き癖がついたから過食症、吐いたりはしないから過食症ではない、と嘔吐の有無だけで診断することはできません。一般に過食症のレベルになると、食べることや食に関する観念がいわば生活の中心になってしまいます。そして摂食障害の大きな問題点の1つとして、当人はその問題をまわりに隠す傾向が強いです。まわりのサポートが得にくく、事態がさらに深刻化していく要因にもなります。
さらにもし過食症のレベルになっていれば、気持ちが落ち込みやすい、飲酒量が増えるといったその他の問題も抱えやすくなります。こうした状況を改善していくためにも、精神科的な対処は一番役立ちます。
嘔吐の有無など1つの問題行動だけで捉えず、総合的な判断、実際にどれくらい日常生活や健康に問題が生じ始めているかを見ることが大切です。
もし今回ご紹介したような内容で、日常生活に支障が出るような行動が自分ではコントロールできなくなっているような場合、精神科受診もぜひ考慮してみてください。